第1回配本で19世紀末から20世紀初頭の小説9作を集成した黄禍論文献復刻シリーズの第2回配本は、同時代の資料をまとめ、反日・反アジアの論説を追います。と同時に、そうした経済的・軍事的脅威論に対するアジアのナショナリストたちの反論を集め、東西の複雑なメディア戦争を再現します。
第1巻は、黄禍論前史として、日清戦争までの黄禍論をとりあげます。なかでもチャールズ・H・ピアソンのNational Life and Character (1893)は、白豪主義の論拠として援用されるな
ど、英語圏に甚大な影響を及ぼしました。たとえば第一期で復刻したShielのThe
Yellow Danger (1898)は、ピアソンの予言を小説化していると書評されています。そうした資料を収録することで、黄禍論をめぐる小説と評論の相関関係を明らかにします。ほかにも、1882年に排華移民法がアメリカで通過した際、どのように英国で論じられたのか、当時の新聞雑誌などから記事を復刻します。Lang-Tungという中国人の偽名で発表された最初期の未来史などのように、反移民運動というよりも、諷刺や娯楽の道具として黄禍論を消費した英国独特の文献も、あわせて収録します。
第2巻以降は、こうした導線をへて東アジアで勃発した事件を時代順においながら、テーマ別に編集します。日清戦争、義和団の乱、日露戦争、そして中華民国の成立と、これらの出来事が英国そして西洋に与えた衝撃を、ノン・フィクション、歴史書のスタイルで著された未来史、作家や外交官の言説、新聞・雑誌に記事や黄禍論小説への書評等々、多様な文献によって浮き彫りにしてゆきます。ハガードや、チェスタトン、ハーンといった著名な作家から、親日で知られる外交官ミットフォードまで、意外な人物が繰り広げた人種(文化)的、経済的、軍事的黄禍論は、その後のアジア脅威論の原型といえるものです。
また、黄禍論をめぐる大隈重信の舌禍事件、若き末松謙澄が発表した「義経=ジンギス・ カン」説とその意外な影響、インド独立派や清朝高官による英語論考など、東アジアからの反論もあわせて収録し、彼らの言論活動が西洋でさらなる黄禍論を生んでゆくといった一種のメディア戦争の再現も試みます。
日本、英国の近代史研究だけでなく明治から大正初期のアジアと西洋間の関係史、そしてメディア史の資料としてもどうぞご活用ください。
■内容予定:(編集上の都合での変更の可能性があります。)
第1巻: 黄禍論前史 米豪での排華運動とピアソンの予言
Lang-Tung, pseud.,
The Decline and Fall of the British Empire: Being a History of England
Between the Years 1840-1981
F. V. White & Co.: London, 1881.
pp. 32.
Charles Henry Pearson,
National Life and Character: A Forecast.
Macmillan and Co.: London, 1893.
pp. 357.
+ 曹紀沢“China-The Sleep and the Awakening” (The Asiatic Quarterly Reivew,
1887)、Lafcadio Hearnの論説、ShielのThe Yellow Danger (第一回配本『英国黄禍論小説集成』に収録)の書評などを収録予定。
第2巻: 中国の目覚めとその衝撃 日清戦争および義和団の乱
R. S. Gundry,
“English Industry and Eastern Competition”, Fortnightly Review, 1895.
John Chinaman [Goldsworthy Lowes Dickinson],
Letters from John Chinaman
R. Brimley Johnson: London, 1901.
pp. 62.
William Jennings Bryan,
Letters to a Chinese Official: Being a Western View of Eastern Civilization.
Harper & Bros.: London & New York, 1906.
pp. viii. 97.
+ Punch誌やTimes紙などの記事、外交官のMitfordや伍廷芳などの論説を収録予定。
第3巻: もう一つの日露戦争 末松謙澄一派と親露派のプロパガンダ戦争
Suyematz, K.,
The Identity of the Great Conqueror Genghis Khan with the Japanese Hero
Yoshitsune: an Historical Thesis.
W.H. and L. Collingridge: London, 1879.
pp. 147.
Alfred Stead,
Great Japan: a Study of National Efficiency
John Lane: London, 1906.
pp. xiv. 483.
Ivanovitch,
“The Russo-Japanese War and the Yellow Peril”, Contemporary Review, 1904.
+ “The Japanese Bayard-Minamoto Yoshitsune”(Strand Magazine, 1912)、ロシア従軍英国人ジャーナリストの日露戦争レポートなどを収録予定。
第4巻: 日露戦争の余波 アジア主義への警戒
Thomas William Hodgson Crosland,
The Truth about Japan
Grant Richards: London, 1904.
pp. 83.
Vivian Gray [Elliot E. Mills],
The Decline and Fall of the British Empire
Alden & Co.: Oxford, 1905.
pp. iv, 50.
Viator,
“Asia Contra Mundum”, Fortnightly Review, 1908.
+ B. H. Chamberlain、Henry Rider Haggard、G.K. Chesterton、H.G. Wellsらの文献、大隈重信の英語論文などを収録予定。
第5巻: 阿片窟幻想の変容 辛亥革命とインド独立運動
Valentine Chirol,
Indian Unrest
Macmillan and Co: London, 1910.
pp. xvi. 371.
E. J. Dillon,
“The Most Momentous Event in a Thousand Years”, Contemporary Review,
1911.
Gerorge R. Sims,
Off the Track in London
Jarrold & Sons: London, 1911.
から一章。
+Times紙などのチャイナタウンや阿片窟をめぐる記事、Sri Aurobindo、Younghusbandによる論説を収録予定。
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