国家によるプロパガンダの果たす役割やそのプロセスは、全世界的なリアル・ポリティークにおいてにわかに強い関心を集めています。本シリーズは、近現代における日本とその国際的野心に関する英語文献を3回配本全24巻(予定)に集成していく企画です。これらの資料は長らく歴史家や社会学者らに看過されてきましたが、今日そしてこれからの研究に重要かつ注目される文献です。
19世紀末から20世紀初頭の西洋世界において、日本人による日本紹介の概説書や小説は幅広く読まれました。これらの多くの「概説書」は、初期の日本の海外へのプロパガンダであったと言えます。しかし西洋世界から眺めた日本に関する書がより多く刊行され始めると、このような「概説書」も徐々に西洋人作家やジャーナリストによって著された書物に取って代わられました。1920年代に入ると、日本政府は外務省内に情報部を設置し、東アジアなどを拠点とする西洋人著述家達と日本政府の国際政策に協力するよう契約を結び、海外への宣伝用の様々な文書を送り出します。
本書は、これら初期の様々なプロパガンダ文献約24点を集成します。国際的批判に対する日本の反応と激動の時代に国際的な支持を得ようとする日本の奮闘振りを如実に物語る史・資料といえます。日本メディア史研究の第一人者内川芳美による序文とシリーズ編者であるピーター・オコーノによる包括的序論をはじめ、各巻に有山輝雄、松村正義、James
Huffman、Adrian Pinnington、James Hoare、William Hooverなど国内外の専門研究者による解説が付されています。
●刊行に寄せて−東京大学名誉教授 内川芳美
この文献シリーズは「近代日本宣伝研究叢書」と称すべきシリーズで、宣伝は無論政治的宣伝としてのプロパガンダだ。その意味のプロパガンダは広くは国の内外を包含するが本シリーズは対外プロパガンダを集中的に論じている点に一つの特徴がある。そしてその日本における特色を明治維新から第二次世界大戦期にいたる期間に公刊された内外の主要なジャーナリストや評論家の日本論を集成し問題にしたのが本シリーズだ。東洋の一小後進国が、駆け足で近代の階段を駆け登り、あっという間に第二次世界大戦の主戦国となった日本、その過程で日本の国民性、歴史文化、天皇意識、戦争観、アジア観、西欧観は、外国人にいかに描かれ日本人はどう主張したか。
本シリーズの公刊には、従来の政治史、メディア史等近現代史研究に決定的に欠落していた比較史的視点の掘り起こしの必要の確認を迫る画期的な意義があるといえる。
●推薦文− 東京経済大学教授
有山輝雄
150年前の日本人は突然来航した異様な船と紅毛碧眼の人々を見て仰天したが、彼らもまたちょんまげをゆって奇妙な服装の日本人を見た。以来、日本人は欧米人の眼からどのように見られているのかを意識せざるをえなかったし、また何とか自己の「実像」を欧米人を知ってもらいたいとも思うようになった。しかし、情報流通のハードとソフトを欧米が握っている状況では、日本からの情報発信は容易なことではなく、ただやみくもに日本事情を発信したところで受け入れられるわけはなかったのである。従って、欧米との交流が深い民間人や外務省などの政府機関が、様々なルートを使って日本の実情を欧米に知らせる努力を展開したのである。そこに多かれ少なかれ、宣伝的要素が含まれてくることは必然的であった。そうした過程にあって微妙な役割を果たすのが知日派の欧米人である。彼らのなかには日本を知っているが故に、日本に厳しい批判の眼を向
けるもののあったし、また日本に理解を示し、同情するものもいた。特に、日本に理解ある欧米人ジャーナリストは、日本側としては頼りになる存在で、時には宣伝に利用もすることになったのである。
ただ、これまで、日本の実情を欧米に知らせようとする日本人の活動、欧米人ジャーナリストの活動については、具体的に知られてこなかった。今回、ここに全10巻のシリーズとして刊行することになったのは、19世紀後半から20世紀半ばまで、日本人による日本紹介文献、欧米人ジャーナリトによる日本外交論政治論である。これまで埋もれていたが、いずれも貴重な文献で、欧米での日本認識を考えるうえできわめて重要な資料である。ともすれば、日本国内にばかり焦点をあてがちだが、やはり世界のなかでの日本を考える研究が必要である。その点で、日本が外に知らせようとした自己像、あるいは欧米知日派の活動、その裏面に見え隠れする日本の対外宣伝活動などを考えるうえで、本シリーズは不可欠の資料集となっている。
■収録文献■
第1巻: 解説 James Huffman
HOUSE, Edward H.,
"Japanese Statesman at Home," Harper's (March
1872)
"The Coolie Trade," New York Tribune (November
1872)
The Japanese Expedition to Formosa (1875)
The Simonoseki Affair: A Chapter of Japanese History,
Tokyo (1875)
The Kagoshima Affair: A Chapter of Japanese History (1875)
"Martyrdom of an Empire," Atlantic Monthly (May
1881)
"Thraldom of Japan," Atlantic Monthly (December
1887)
"Hesperia Outrage," Tokio Times (August,1879)
Yone Santo: Child of Japan, [1-5, 39-53]
第2巻: 解説 Adrian Pinnington
OKAKURA Kakuzo [Tenshin], The Awakening of Japan (1904),
1st ed., New York
NITOBE Inazo & OKAKURA Kakuzo, Japan's innate virility:
selections from Okakura and Nitobe. Intro by Y. Fukukita,
Tokyo (1943)
第3巻: 解説 Matsumura Masayoshi
SUYEMATSU Kencho, The Risen Sun, London (1905)
第4巻: 解説 Adrian Pinnington
SAKURAI Tadayoshi, Human bullets: a soldier's story of
Port Arthur [Niku-dan]
[intro by Okuma Shigenobu] translated by Honda Masujiroh
and Alice M. Bacon,First ed., Tokyo, (1907)
HINO Ashihei, Barley and soldiers (Mugi to Heitai), translated
by K. & L. W.Bush, Tokyo, (1939)
第5巻: 解説 Peter O'Connor
CLARKE, Joseph I. C., Japan at first hand: her islands,
their people, the picturesque, the real, with latest facts
and figures on their war-time trade expansion and commercial
outreach, New York (1918)
第6巻: 解説 James Hoare
LADD, George Trumbull, In Korea with Marquis Ito, New
York (1908)
第7巻: 解説 William Hoover
KAWAKIMI, Karl Kiyoshi, What Japan Thinks. Ed. K. K. Kawakami
with essays by Isoh Yamagata, Rikitaro Fujisawa, R. Oda,
Yukio Ozaki, Sakuzo Yoshino,
Tetsutaro Sato, Henry Satoh, Takashi Hara, Masaharu Anesaki,
Marquis Okuma,
Shimpei Goto, & M. Zumoto, New York (1921)
KAWAKAMI, Karl Kiyoshi, Japan in China: her motives and
aims; Intro by the Right Hon. Sir John Tilley and Captain
the Right Hon. Lord Sempill, foreword Viscount Ishii,
London (1938)
第8巻: 解説 Ariyama Teruo (trans. A. Pinnington)
REA, George Bronson, and WOODHEAD, H. G. W., Presenting
Japan's side of the case, Articles from Far Eastern Review,
Shanghai, (1931)
REA, George Bronson, The highway to hostilities in the
Far East, Shanghai (1932)
Ernest Harold Pickering, Japan's Place in the Modern World,
London (1936)
第9巻: 解説 Ariyama Teruo (trans. A. Pinnington)
KINNEY, Henry Walsworth, Modern Manchuria and the South
Manchuria railway
company, Dairen (1928)
PENLINGTON, John N., The Mukden mandate: acts and aims
in Manchuria ["A survey
and record of the salient facts and features of the Sino-Japanese
conflict in
Manchuria, from the incident of September 18, to the decision
on December 9,
1931, of the League of nations"], Tokyo (1932)
WILLIAMS, Frederick Vincent, Behind the news in China,
New York (1938)
第10巻: 解説 Peter O'Connor
VAUGHN, Miles W., Under the Japanese Mask, London (1937)
●シリーズ続刊●
Series 2: Pamphlets 全4巻
2004年刊行予定 ISBN 4-901481-81-9 価格未定
Series 3: Newspaper and Magazine Articles 全10巻
2005年刊行予定 ISBN 4-901481-82-7 価格未定
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