分野:英国文化・英文学研究(18世紀)、英国生活史、東西交流史、比較文化
『茶の文化史:英国初期文献集成』
全5巻(復刻版)+別冊

A Collection of Early English Books on Tea
監修■島田孝右(専修大学教授)
編集および解説(別冊・日本語)■滝口明子(東京外国語大学非常勤講師)

2004年12月刊行予定
約2030頁
本体セット予価:\118,000-
(税込予価\123,900-)
ISBN 4-902454-03-3

●東洋からの茶文化が英国社会に定着する過程の貴重な文献集
●ケンペル、ショート、ウェスレー、ジョンソン博士、レットサムらの主要文献から、
今まで知られることのなかった実用書など稀覯文献を集成
●英国文化研究だけでなく、東西比較文化研究の資料としても貴重

今日の英国文化や食生活に紅茶は最も重要な要素の一つとなっていますが、喫茶の習慣がこのように定着するまでには長い歴史のなかで様々な文化、経済、そして医学的論争を引き起こしてきました。17世紀初頭に東洋からヨーロッパにもたらされた茶は、オランダ経由で英国に紹介されたとされています。その後チャールズ2世の宮廷内で茶はあたらしい飲み物として広がりますが、その頃の一般市民にとってはまだそれは非常に貴重な薬の一種にすぎませんでした。宮廷内の茶の流行が、市民生活に普及し始めるのは17 世紀末から18世紀にかけてで、それにはイギリス東インド会社が茶の輸入に乗り出し、販売価格や茶税が大幅に引き下げられたことなど経済的要因も大きく寄与しています。
ココアやコーヒーとともに大流行した茶は、英国の食文化に革命的ともいえる影響を与え、それは一種の社会現象ともなります。その背景には刺激剤としての茶が、人々の生産性を向上させ、工業化を間近に控えたイギリスの時代の要請にあう飲み物であると受け入れられたことがあったとも考えられています。このような茶の日常化がある一方で、その大衆への浸透を危惧する反対論が巻き起こり、医学、経済、そして倫理的見地から茶を禁じようとする勢力も現れます。18世紀を通じ茶に対する賛否は様々な形で世に問われますが、この「茶論争」が終結に向かう19世紀になると、今日人々が接している嗜好飲料に近いイメージの茶文化が社会の中に定着してゆきます。

本文献集は、英語で出版された最初期の茶論から18世紀末までの実用書や茶論23点を集成します。ケンペルが『日本誌』の付録として発表した「日本の茶の話」、茶論争の出発点ともなった医師ショートの著名な茶論、友人への書簡の形式で茶を論じたメソジスト教会創始者ジョン・ウェスレーの文書、最も激しい反茶を論じた慈善事業家ジョナス・ハンウェイの著書とそれに対するジョンソン博士の痛烈な批判、今日も名の残る紅茶商トワイニングの茶貿易論、科学的見地から茶論争を収束させたレットサムの『茶の博物誌』など、著名な執筆者の茶論から今まで知られることのほとんどなかった実用書まで多様な文献が集められています。それらの大部分が現在古書でも手に入れることの極めて困難な稀覯書です。

近代英国が形成されるこの時代、異文化の一つとしての茶がどのように生活文化のなかに受け入れられていったのか、その過程への考察は、英国文化研究だけでなく東西文化交流のテーマとしても大変興味深いものです。英国研究者だけでなく、東西比較文化研究に携わる研究者の方々に広くお薦めいたします。(参考文献:滝口明子著『英国紅茶論争』講談社選書メティエ)

◆監修者のことば
島田孝右

 18世紀の文壇の大御所サミュエル・ジョンソン博士は、ロンドンに飽きた者は人生に飽きたのだ、と言ったと伝えられている。茶に飽きた者は人生に飽きたのだ、と言った人がいるとは聞いていないが、茶をぬきにしてイギリスは語れない。では、茶の木の栽培ができないこの国で、いつ頃からお茶は飲まれるようになったのであろうか。日本の茶道のようなセレモニーとして扱われたのであろうか。幾つかの史料には、茶は薬であったと書かれている。では、どのようにして嗜好品となり、喫茶の流行が生まれたのであろうか。このような疑問が次々とわいてくる。
 茶に関する研究書、一般書は数多く刊行されており、ある程度きちんとした答えが出されている。しかし、それが根本史料に基づいたものかどうか疑わしいものも少なくない。今回刊行される茶の文献は、第一級の根本史料集であると言っても過言ではない。
殆んど入手不可能であったものが多く、茶の歴史の研究者にとってなくてはならないものである。


◆編者のことば

滝口明子

 17世紀初めから現在まで,ヨーロッパにおける茶の歴史は400年を迎えようとしている。今回刊行される『茶の文化史:英国初期文献集』はその前半の200年間に英語で書かれた茶書を集成し復刻したものである。今後の茶の文化史研究に道を開く画期的な文献集と言ってよい。
 茶はもともと中国や日本を中心とする東洋の飲み物で,19世紀前半まではヨーロッパでも中国茶と日本茶が飲まれていた。19世紀後半になるとイギリスの植民地だったインドおよびスリランカにおける茶の生産が本格化する。この「アジア産のハーブ」が世界飲料となるに至ったのは,お茶好きになったイギリス人が「世界のどの大陸にでかけるにもお茶用のやかんを携えていったから」とされている。ではどのようにしてイギリス人はそれほどのお茶好きになったのだろう。
 その秘密を知る鍵がこの文献集には含まれている。収録した全24冊は,すべて茶について何かを語る本ではあるが,その語り口はバラエティに富んでいる。茶の讃歌もあれば医学的茶論もあり,茶税を論じた本や反茶論もあれば,茶とコーヒー,ココア,タバコの美味しい嗜み方と効能を述べた実用書も含まれている。
 執筆陣も豪華と言うほかない。徳川綱吉時代の日本に来て「日本の茶の話」を書いたドイツ人エンゲルベルト・ケンペル,18世紀宗教復興運動のパイオニアであるジョン・ウエスレー師,18世紀茶論争の立役者ジョナス・ハンウェイとイギリスのお茶好きを代表する茶文人ジョンソン博士,茶商として広く知られるリチャード・トワイニングなどなど。
 本書は,食文化史や文化史全般,英文学,東西交流史,比較文化史の資料としてもきらりと光る鉱脈を含んでいる。茶の文化史研究を志す人はもちろん,広範な読者に薦めたい。  

■予定収録明細■

Vol. 1: (c.422 pp)
Anon. [Chamberlayne, John]
The natural history of coffee, thee, chocolate, tobacco; with a tract of elder and juniper-erries, showing how useful they may be in our coffee-houses: ans also the way of making M U M, with some remarks upon that liquor
London, 1682, 40pp

Dufour, Sylvestre
The manner of making coffee, tea, and chocolate. As it is used in most parts of Europe, Asia, Africa, and America. With their vertues. Newly done out of French and Spanish., translated by John Chamberlayne
London, 1685, 126pp

Ovington, John
An essay upon the nature and qualities of tea
London, 1699, 46pp

Tate, Nahum
A poem upon tea: with a discourse on its sov'rain virtues; and directions in the use of it for health. Collected from treatises of eminent physicians upon that subject. Also a preface concerning beau-criticism
London, 1702, 62pp

Anon.
An essay upon the nature, use, and abuse, of tea in a letter to a lady; with an account of its mechanical operation
London, 1722, 63pp

Anon.[Physician]
An essay on the use and abuse of tea, Being a mechanical account of its action upon human bodies. With an attempt towards adjusting the difference between perspiration and sweat
London, 1725, 63pp

Kaempfer, Engelbert
The appendix to the history of Japan, Appendix
London, 1727, 22pp

Vol. 2: (c.480 pp)

Short, Thomas
A dissertation upon tea, explaining its nature and properties by many new experiments; and demonstrating from philosophical principles, the various effects it has on different onstitutions
London, 1730, 123pp

Campbell, Duncan
A poem upon tea. Wherein its antiquity, its several virtues and influences are set forth; and the wisdom of the sober sex commended in chusing to mild a liquor for their entertainments. Likewise, the reason why the ladies protest against all imposing liquors..., also, the objections against tea, answered; the complaint of the fair sex redress'd, and the best way of proceeding in love-affairs...
London, 1735, 31pp

Writing-master, J. B.
In praise of tea, A poem. Dedicated to the ladies of Great Britain
Canterbury, 1736, 11pp

Anon.
Tea, a poem. In three cantos
London, 1743, 49pp

Mason, Simon
The good and bad effects of tea consider'd. Wherein are exhibited, the physica l virtues of tea... To which are subjoined, some considerations on afternoon tea- drinking, and many subsequent evils attending it; with a persuasive to the use of our own wholeome product, sage, etc.
London, 1745, 53pp

Surgeon, J. N.
Remarks on Mr. Mason's treatise upon tea: subsequent to which, is exhibited a true portrait of the qualities and effects of that liquor
London, 1745, 24pp

Pualli, Simon
A treatise on tobacco, tea coffee, and chocolate…, translated by Dr. James
London, 1746, 173pp

Wesley, John
A letter to a friend, concerning tea
2nd ed., Bristol, 1749, 16pp

Vol. 3: (c.435pp)
Short, Thomas
Discourses on tea, sugar, milk, made-wines, spritits, punch, tobacco, etc., with plain and useful rules for gouty people
London, 1750, 435pp

Vol. 4: (c.382pp)
Hanway, Jonas
An essay on tea, considered as pernicious to health, obstructing industry, and impoverishing the nation: with an account of its growth, and great consumption in these kingdoms,... from A journal of eight days journey from Portsmouth to Kingston upon Thames,… (pp.203-361)
London, 1756, 165pp

Johnson, Samuel,
Review on Hanway, from The Literary Magazine; or, Universal Review, No. 13
London, 1757, 4pp

Lettsom, John Coakley
The natural history of the tea-tree, with observations on the medical qualities of tea, and effects of tea-drinking
London, 1772, 64pp

Twining, Richard
Remarks on the report of the East India directors, respecting the sale and prices of tea
London, 1784, 80pp

Twining, Richard
Observations on the tea and window act, and on the tea trade London, 1785, 69pp

Vol. 5: (c.292pp)
A Friend to the Public
The tea purchaser's guide; or, the lady and gentleman's tea table and useful companion, in the knowledge and choice of teas
London, 1785, 52pp

McCalman, Goddfrey
A natural, commercial and medicinal treatise on tea. With a concise account of the East India Company - thoughts on its government, Also, an advice as to the use and abuse of tea...
Glasgow, 1787, 128pp

Lettsom, John Coakley
The natural history of the tea-tree, with observations on the medical qualities of tea, and on the effects of tea-drinking.
New edition, London, 1799, 112pp

●●近刊●●

『庭の文化史:英国初期文献集成』 全5巻(復刻版)+別冊
A Collection of Early English Books on Gardening
2005年春刊行予定
本体セット予価:\118,000- (税込予価\123,900-)
ISBN 4-902454-05-X

下記を含む英国17-18世紀の稀覯文献十数点強を復刻する予定です。
Rapine, R., Of gardens (1673),
Temple, Sir William, Miscellanea (1690),
Anon., A description of the Royal Gardens at Richmond (1736),
Attirety, J. D., A particular account of the Empire of China's gardens near Pekin (1752)
Chambers, William, A dissertation on oriental gardening (1773)  など。

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