●英米民間伝承「マザーグース」研究のための基本文献を復刻する好評シリーズ第2回配本。
●マザーグース研究の嚆矢である19世紀初頭の文献学者ジョン・ベレンデン・カーの稀覯書からヴィタ・サックヴィル=ウエストのエッセイまで、幅広く網羅。
●児童文学研究資料としてだけでなく、英米の大衆文化、そしてヴィクトリア朝文化の多様な研究に利用可能。
―編者より―
イギリスの文化、歴史、民俗を新たな視点から照射する貴重な文献集 夏目康子
マザーグース初期英米コレクションに続く、マザーグース初期研究書の集成です。19世紀初頭から20世紀半ばまでの貴重な13文献(うち1点は抜粋)を収録しています。研究者がマザーグースを研究対象としてどのようにみてきたのか、興味深い実像が浮かび上がってきます。
19世紀の文献学者ジョン・ベレンデン・カーは、マザーグースの唄とアングロ・サクソン語やオランダ語とのあいだに関連を見出し、マザーグースの唄を独自に解釈しています。さらに、いろいろな語句が、チョーサー、シェイクスピア、ドライデンなどの作品にどのように登場しているか、縦横無尽に学識を披露しています。キャサリン・E・トマスは、マザーグースの唄をイングランド、スコットランドの王・王妃たちが登場する史実とからめて解釈しています。その他、ウィリアム・H・ウィットモア、パーシー・B・グリーン、リーナ・エッケンシュタイン、ヘンリー・ベットなどによるマザーグースに関する基本的な文献のほか、バンベリー・クロスについての考察、マザーグースの由来についての考察など、珍しい文献も収録されています。
ヴァージニア・ウルフと親交の深かったヴィタ・サックヴィル=ウエストが、マザーグースについて書いたエッセイも含まれています。これらの、現代とは異なる論点、アプローチの仕方、論法等は、マザーグースや児童文学だけでなく、19世紀から20世紀のイギリス文化を体系的に研究するうえでも、興味深い資料となります。批評書のなかに登場する、現代とは異なるマザーグースの版も、重要な一次資料と言えます。
本集成は、現代とはひと味違う、19世紀から20世紀半ばのイギリスの知のあり方を知る絶好の集成です。マザーグースや児童文学の研究資料としてだけでなく、イギリスの文化、歴史、民俗を新たな視点から照射する、貴重な文献といえるでしょう。
各巻収録文献
Vol. 1: 302pp
John Bellenden Ker
An Essay on the Archaeology of Popular English Phrases and Nursery Rhymes,
Vol.1,
London, Longman, Rees, Orme, Green & Co., 1835, 302pp
Vol. 2: 443pp
John Bellenden Ker
An Essay on the Archaeology of Popular English Phrases and Nursery Rhymes,
Vol.2,
London, Longman, Rees, Orme, Green & Co., 1837, 310pp
Extracts from A Supplement to the 'Essay': Vol.1 pp.i-ii
(preface) & 256-311, Vol.2 pp.i-vi (preface) & 151-219
London, James Ridgway, 1840 & 1842, 58pp & 75pp
Vol.3: 333pp
William H. Whitmore
The Original Mother Goose's Melody, to which added The Fairy Tales of
Mother Goose, First collected by Perrault in 1666, translated in English,
by R. Samber in 1729
2nd ed., London, Griffith Farran, 1892, 121pp
Percy B. Green
A History of Nursery Rhymes
London, Greening & Co., 1899, 212pp
Vol.4: 526pp
Robert Ford
Children's Rhymes, Children's Games, Children's Songs, Children's
Stories,
2nd ed. Paisley, Alexander Gardner, 1904, 287pp
Lina Eckenstein
Comparative Studies in Nursery Rhymes
London, Duckworth & Co., 1906, 239pp
Vol.5: 491pp
Henry Bett
Nursery Rhymes and Tales, Their Origin and History
London, Methuen, 1924, 139pp
Katherine Elwes Thomas
The Real Personages of Mother Goose
Boston, Lothrop, Lee & Shepard Co., 1930, 352pp
Vol.6: 389pp
Henry Bett
The Games of Children: Their Origin and History
London, Methuen, 1929, 141pp
William Potts
Banbury Cross and the Rhyme
Banbury, The Banbury Guardian, 1930, 78pp
James Brown MacDougall
The Real Mother Goose: The Reality Behind the Rhymes
Toronto, The Ryerson Press, 1940, 64pp
Vincent Starrett
All about Mother Goose
The Appellicon Press, 1930, 40pp
V. Sackville-West
Nursery Rhymes, an Essay
London, The Dropmore Press, 1947, 66pp
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マザーグース・ライブラリー 第1回配本
マザーグース・ライブラリー 第1回配本
マザーグース初期英米選集コレクション 全6巻+別冊
Mother Goose Library 1: Collection of Early Editions
編集: 藤野紀男(十文字学園女子大学教授、日本イギリス児童文学会会長、マザーグース研究会会長)
解説(日本語別冊): 藤野紀男&夏目康子(津田塾大学非常勤講師)共著
2004年10月刊行
約2150頁 (図版白黒多数)
本体:\118,000 (税込:\123,900)
ISBN: 4-902454-04-1
●マザーグース・英国児童文学研究のための学究版コレクション。
●最初期のマザーグース集から、19世紀末までの英米の選集13点を収録。
●英米文学研究だけでなく、英米大衆文化、出版文化史研究資料としても重要。
推薦文「生きつづける生命力―重要な初期集成探訪」日本児童文学学会会長
原 昌
英国の伝承童謡「マザーグースの唄」は、わが国の<わらべ唄>と異なって、その影響の裾野が広く、古くから文学や演劇に入ったり、政治風刺や社会風刺に用いられたり、イギリス人の日常感覚にも入り込んでいる。いわば基層文化の一つである。もちろん、アメリカにも流布し、文学・文化に影響を与えている。その唄の多くは<遊び>の感覚に溢れ、意味よりもリズムを重視し、時間・空間を超えるメディアとしての強さと、世代を経て研ぎすまされた唄としての普遍性、子どもと大人の共有性を有している。その背景には、イギリス人の古き遺産への尊重と民族のこころへの絶えざる回帰がある。
唄の起源の多くは<大人の世界>にあって、子どもの世界に入って保存されたという。もちろん、その継承は<子ども部屋>だけでなく、その時代時代の文化的メディアに正体を明かさず入り込み、さまざまな伝承ルートを通して、今日まで生きつづけてきた。
その重要なメディアの一つが、文字による記録集成である。「マザーグースの唄」は、たしかに口承文芸としての歴史は古いが、集成は比較的新しい。チャップブックやTommy
Thumb's Pretty Song Book, Voll.[sic] IIなどが先駆をなしたものの、その集成が本格化しはじめたのは、18世紀後葉になってからであった。
このコレクションは、初期集成のうえで、当時を代表する古い選集 Mother Goose's Melody をはじめ、最初の文芸学・民俗学的研究であるJ.
O. Halliwellの The Nursery Rhymes of England や、著名な挿絵画家L. L. Brooke と民俗学者
A.Langと組んだThe Nursery Rhyme Book など、文献学上の重要な書を含み、18世紀末から19世紀において本格化した集成の足跡である。当時における唄の変化、唄の解釈、唄の広がりを示すとともに、初期の挿絵の美しさにも触れることができる。また、ヴィクトリア朝の英米文学、英米児童文学、および大衆文化への直裁的な影響を探るうえでも重要である。
内容明細
Vol.1: 226 pp
Mother Goose's Melody: or, Sonnets for the Cradle, in Two Parts.
London, Francis Power, 1791
Reprinted from A Facsimile Reproduction, London, A. H. Bullen, 1904,
with an introduction and notes by Colonel W. F. Prideaux, C.S.I, xix
92 14: pp 125
●18世紀を代表する出版者ニューベリーの孫フランシス・パウワーが刊行した、マザーグースを題名に含む最も古い選集。Prideauxの解説入り復刻版を収録。
Mother Goose's Melodies, The Only Pure Edition. Containing
all that have ever come to light of her memorable writings, together
with those which have been discovered among the mss. of Herculaneum.
Boston, Munroe and Francis, 1833, pp 96
●米国での初期の選集で、その後のアメリカでのマザーグース・メロディー流布の一端となった。
Vol.2: 384 pp
Halliwell, James Orchard
The Nursery Rhymes of England, Obtained principally from Oral Tradition.
2nd ed., London, John Russell Smith, 1843, x 259: pp 269
●著名なシャイクスピア学者James Orchard Halliwell-Phillips(1820- 1889)による選集。伝承童謡を初めて学問として研究、編纂した書物として後世に大きな影響を与えた。初版掲載の約300編に約110編の童謡を追加し、詳細な注釈入れた第2版を収録。
Nursery Rhymes, Tales, and Jingles
2nd ed., London, James Burns, 1846, pp 110
●ヴィクトリア期の美しいイラスト入りで人気を博した選集。1844年初版の成功後、収録童謡とイラストを増やし出版された第2版。
Vol.3: 395 pp
Mother Goose's Melodies, selected and arranged by My Uncle Solomon
Portland, S.H.Colesworth, 1850, pp 95
Mother Goose's Melodies Illustrated
New York, James Miller, c1860, pp 90
●19世紀半ばの米国で多数出版されたマザーグース・メロディーの代表例2点Mother Goose's
Melodies for Children, or Songs for the Nursery, with
Notes, Music, and an Account of the Goose or Vergoose Family and with
illustrations by Henry L. Stephens and Gaston Fay
New York, Hurd and Houghton, 1869, xix 186: 205
●約390編を掲載し、何度も版を重ねた代表的選集。マザーグースを実在したアメリカ人女性とし、その遺産状況まで記した一文を載せ、その後の「マザーグース=アメリカ人説」の普及を促進した。
Vol.4: 475 pp
Mrs. Partington's Mother Goose's Melodies containing All the original
rhymes of Mother Goose, besides many others of a similar character:
and full directions
for costumes and acting some of the principal pieces. With a choice
of music, especially adapted to the rhymes. Edited by Uncle Willis Boston,
Lee and Shepard, 1874, pp 150
●19世紀米国で活躍したユーモア作家B. P. Shillaberの作り出したキャラクター、パーティントン夫人の名を冠したマザーグース本。巻頭でパーティントン夫人がマザーグース夫人の思い出を語っている。また巻末にマザーグース歌曲の楽譜10点あまりを付録。
Tileston, Mary Wilder.,
Sugar and Spice and All That's Nice
1885 (Reprinted from 1905 ed. Boston, Little Brown and Co.), vi 186:
pp 192
●'Joy and Strength'や'Daily Strength for Daily Needs'などの精神的著作で名を残すMary
Wilder Titlestonによる選集。伝承童謡のなかにロセッティ、キャロル、リアら同時代の詩人の作品を挿入するという現代的編集がなされている。
Favourite Rhymes for the Nursery, with Numerous Pictures
and Picture-Pages
London, T. Nelson and Sons, 1887, pp 128
●200編あまりの童謡を多数のイラストと供に収録した、ヴィクトリア期の典型的マザーグース集。
Vol. 5: 373 p
Baring-Gould, Sabine
A Book of Nursery Songs and Rhymes, with illustrations by members of
The Birmingham Arts School under the direction of A. J. Gaskin
London, Methuen, 1895, pp 160
●宗教書から大衆小説にいたるまで400点以上の著作を残したSabine Baring-Gould (1834-1924) は、英国各地の民謡、童謡を収集し残した事でも知られている。本書は彼の集めた童謡に、ケルムスコット・プレスのデザイナーだったGaskinらが装丁を施したヴィクトリア末期を代表する選集。
Mother Goose's Nursery Rhymes and Melodies, Complete
Edition New York, Hurst and Co. c 1894, pp 208
●完全版と銘打ち、511編の童謡を集めたアメリカの家庭向けの選集。19世紀に出された様々な版からのイラストを無秩序に一冊の中に収めている。
Vol.6: 288 pp
Lang, Andrew
The Nursery Rhyme Book, illustrated by L. Leslie Brooke
London, Frederick Warne & Co., 1897, pp 288
●スコットランドの童話作家・詩人・民俗学者Andrew Lang(1844〜1912)編の選集に、エドワード・リアのノンセンス詩集の挿絵などで著名な絵本作家Leonard
Leslie Brookeがイラストを付けた重要な文献。イギリス民俗学会の設立にも尽力した編者は、世界各地の民話や伝承の収集でも大きな功績を残した。本書は伝承童謡を歴史、物語、ことわざ、なぞなぞ、子守唄、遊び、恋愛、自然など14の項目に分類し編集している。
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