●明治期に西欧より導入された経済思想を、その主要邦訳書の系統的復刻によりたどる初めての試み。
●西洋経済学の名著の翻訳だけでなく、日本での経済学確立期に主要な役割を果たした文献やお雇い外国人の講義録の翻訳なども収録。
■編者の言葉■
関西学院大学教授 井上琢智
現代の日本経済思想史、日本思想史、さらに広く日本近代史や比較思想史に関心を抱く研究者や学生にとってもっとも不便なのは、これらの研究対象となる原書や邦訳の原典が今やその入手がきわめて困難であり、その機会にめぐまれたとしてもきわめて高価である。そのため、原書や原典にもとづく原典主義研究の促進と拡大をいちじるしく難しくしている。確かに、前者については、近年、水田洋編集・序文
Western Economics in Japan: The Early Years -『西欧経済学の日本への導入』(全8巻)が出版され、原典の研究資料整備の第一歩が踏み出された。しかし、後者
については、古くは『明治文化全集』があり、その「経済編」にこれら原典がわずかに収録された過ぎず、また『東京経済学講習会講義録』(全21巻)や石川暎作・嵯峨正作『国富論』などの最近
の復刻も、研究者・学生にとって福音ではあるものの、その数はきわめて少なく、ましてや幕末・明治期にかけての主要邦訳書を、欧米の経済学者と邦訳者の影響力の大きさをも念頭に入れな
がら、選書され、系統的に復刻されたシリーズは皆無であったと思います。これらの観点を考慮しながら編集された本シリーズは、その点だけでもきわめて有意義な復刻であるといえます。
加えて、本シリーズは、その選書に際して、幕末・明治期における欧米経済学の邦訳もしくは訳述・著作による日本への導入ルートの違いにも注目した点にも特徴があります。すなわち、第一に、輸入された外国語で書かれた原書の邦訳、第二に、欧米の留学先で指導を受けたり受講した経済学者の著作や講義録の邦訳、さらに第三に、お雇い外国人による日本での講義録の邦訳です。例えば、第一の邦訳書がその大半を占めるものの、第二の例にあたる大野直輔著の『経済新話』を収録し、また、第三の例にあたる鬼頭悌次郎訳の『経済叢書』を収録したのもこのような選書の
視点によるものです。
いずれにせよ、本シリーズの各巻がこのテーマに関する研究者・学生の皆さんの身近に置ける基礎資料となり、これまで資料上の制約から生じていた研究上の不便さが少しでも軽減することを
願っています。
収録内容(予定:変更の可能性がございます。)
第1巻: (約300頁)
解説 井上琢智、約20頁
○神田孝平重訳『経済小学』、約166頁、1867年
*Ellis,William : Outlines of Social Economyの邦訳
○小幡篤次郎訳述『生産道案内』、約118頁、1870年
*Whately, Richard: Easy Lessons on Money Mattersの邦訳
第2巻: (約342頁)
○福澤諭吉編纂『西洋事情外編』、約342頁、1867年
*Chambers, Willaim and Chambers, Robert (eds.): Political Economy for
Use in Schools, and for Private Instructionの邦訳
第3巻: (約432頁)
○何礼之訳 『世渡りの杖−一名経済便蒙』、約432頁、1872-74年
*Wayland, Francis: Elements of Political Economyの邦訳
第4巻: (約592頁)
○永田健助訳述『宝氏経済学』、約592頁、1877年
*Fawcett, Millicent Garret: Political Economy for Beginnersの邦訳
第5巻: (約435頁)
○永田健助編述『経済説略』、約146頁、1879年
*Fawcett, Millicent Garret: Political Economy for
Beginnersの邦訳
○堀越愛国訳『百科全書(経済論)』、約50頁、1874年
*Chambers, Willaim and Chambers, Robert (eds.): Chambers's Information
for the Peopleから邦訳
○大野直輔著『経済新話』、約206頁、1877年
*Cairnes, John Elliot: Lectures on Political Economy, University Collegeの邦訳
○鬼頭悌次郎訳『経済叢書』第二号、約33頁、1878年
*Siebold, Heinrich Philipp Freiherによる未刊の講義録の邦訳
第6-7巻: (約360、360頁)
○川本清一訳『彼理氏著理財原論』、約720頁、1880年
*Perry, Arthur Latham: Elements of Political Economyの邦訳
◎本集成は邦訳和書のみの復刻集成です。原洋書は含まれません。◎
シリーズ続刊(予定: 変更の可能性がございます。)
■第二期:『明治中期邦訳経済学書』全7巻 (ISBN: 4-902454-10-6) − 2006年春刊行予定
大島貞益訳『日奔斯氏貨幣論』、1883 (Jevons, W. Stanley: Money and The Mechanism if
Exchange, 1875)
犬養 毅訳『圭氏経済学』、1884 (Carey, Henry Charles: Principles of Social Science,
1858-59)
高橋是清訳『勤業経済学』、1885 (Marshall, Alfred & Marshall, Mary Paley: The
Economics of Industry, 1879)
渡辺修二郎訳『日奔斯氏経済初学』、1884 (Jevons, W. Stanley, Political Economy, 1878)
■第三期:『明治後期邦訳経済学書』全7巻 (ISBN: 4-902454-11-4) − 2006年末刊行予定
大島貞益訳・富田鉄之助校閲『李氏経済論』、1889 (List, Friedrich: Das nationale System der
politischen Oeconomie, 1841,
Translated by S.S.Llyd, 1885 からの重訳)
天野為之訳補『高等経済原論』、1891 (Mill, John Stuart: Principles of Political Economy,
1848, Abridged ed. by Laughlin, J. L.1884)
浮田和民訳『経済学之原理』、1891 (Learned, D. W.)
吹田鯛六訳『労働問題』、1893 (Jevons, W. Stanley: The State relation to Labour,
1882)
井上辰九郎訳述『経済原論』、1896 (Marshall, Alfred: The Elements of Economics of Industry,
1892) |