●マルサスが『人口論』執筆の際、着想の源とした書物から、特に稀覯な諸著作を精選して収録。
●近年の人口政策問題の視点からも、活発に議論されるマルサス人口論の成立過程および史的背景の解読に不可欠な文献集成。
■編者の言葉■ 長崎県立大学教授 柳田芳伸
かつてキャナン(Edwin Cannan, 1861-1935)はマルサスの『人口論』の本質を自問自答した。今日あらためてこの問いに向き合っても、即答するのは依然として容易ではないであろう。しかし少なくとも次のように回答することは可能であるだろう。すなわちマルサスは経済的進歩をともなったゆるやかな人口の増加を望んでやまなかったのであり、けっして人口増を全否定し、嫌悪していたのではないと。
こうしたマルサス像を思い浮かべるなら、先進諸国が総じて少子化を主因とする人口減少を迎えつつある現在、マルサスの『人口論』を読み返す意味は少なくないといえよう。とりわけ第2版(1803年)以降の『人口論』の諸版を一読することは有意義であろう。というのもマルサスはそれらの版において、文明社会〔≒近代社会〕の下層階級が勤労や慎慮といった諸徳目をしっかりと身につけた健康な中流階級へと成長していく方途を指し示そうとしているからである。とくに下層階級が生活標準の向上を志向し、自発的に慎慮的抑制を実行していくことに並々ならない期待を寄せている点は見過ごすことができない。
本企画はこうした視角に立って、マルサスに先んじて類似した見解を提示している諸著作のうちの幾冊をはじめて翻刻し、マルサスの着想源をより広く訪ねるのを可能にしようとするものである。
モンテスキューに端を発し、ヒュームやウォーレス、あるいはプライスなどが繰り広げていったいわゆる人口論争に関する著作の大半はグラス(David
Victor Glass, 1911 - 78)による全14巻の『人口学の開拓者たち』(1973年)の刊行などによって既に復刻をみている。本事業では、これまで知られながらも、稀覯書のゆえにほとんど接する機会をもちえなかった原典の再刊が企図されている。このことによってマルサスの思想的源泉を辿る際の資料整備が一層推進されるのは間違いない。マルサスの研究者はもとより、人口思想史や英国経済思想史に興味を寄せる研究者に広く薦めたい。〔参考文献:永井・柳田・中澤編『マルサス理論の歴史的形成』(昭和堂、2003年)〕
■収録内容■(予定)
第1巻
ヘール『人類の原始的起源』
Hale, Mathew -
The Primitive Origination of Mankind, considered & examined according
to the Light of Nature (1677) c.380pp.
第2巻
アーサー・ヤング『北部旅行記』『東部旅行記』より(抜粋)
Young, Arthur -
A Six Month's Tour through the North of England (1770), Letter IV, XVI.
268 pp
. The Farmer's Tour through the East of England (1771) , Letter IV.
67pp.
同『平易に述べられた食料不足問題と求済案』
Young, Arthur -
The Question of scarcity plainly stated and remedies considered (1800),
c.100 pp.
第3−5巻
タウンゼント『スペイン旅行記』
Townsend, Joseph -
A Journey through Spain in the years 1786 and 1787 (1792), in 3 vols.
vii,402 pp., iv,414 pp.,iv,356 pp.
第6巻
ブルクナー『動物組織の理論』
Bruckner, John -
A Philosophical Survey of the Animal Creation (1768), xxiv.,166pp.(Translation
from French)
アンダーソン『英国における現下の食料不足をもたらした諸事情の洞察』
Anderson, James -
A Calm Investigation of the Circumstances that have led to the Present
Scarcity of Grain in Britain (1801), c.94 pp.
ブース『牧師T. R.マルサスへの書簡』
Booth, David -
A Letter to the Rev. T.R. Malthus,…being an answer to the criticism,
on Mr. Godwin's work on population, which was inserted in the LXXth
number of the Edinburgh review: to which is added an examination of
the censuses of Great Britain and Ireland.(1823), iv,124 pp. |