●近代的な「子ども観」の成立とその変遷を数多くの文献から探る史資料集。
●16世紀から18世紀末まで45件強の文献を復刻集成し、時代別に3回に配本。各配本編者の解説付き。
●第1回では18世紀前半の育児書、作法書、宗教・教育書など17点を収録。
編者より − 子どもに関するイギリスの初期文献 (1700-1750)
同志社大学助教授 圓月優子
フィリップ・アリエスによると、ヨーロッパにおいて近代的な子ども観がみられるようになるのは17世紀以降のことであった。確かにイギリスでもそれ以前の子どもはほとんど注目されることのない存在であったようだ。赤ん坊の両手両足をまっすぐに伸ばした状態でミイラのように布切れでぐるぐる巻きにするスウォッドリングとよばれる習俗がみられた、赤ん坊の授乳と養育は乳母任せにする傾向があった、習慣的に厳しい体罰を加えることこそがしつけとみなされた――現代の価値観に沿うものでないとしても、そういった子育て方法には、その時代なりの考え方や必要性もあったのだろう。多く生まれはするものの死亡率が極めて高い子どもに対して、親が大きな関心を持
たなかったとしても無理はなかったのかもしれない。
しかしながらそういった傾向は「子どもの発見」と呼ばれる意識の変化のもと、上流社会から徐々に変化し始める。ピューリタンを中心とした母乳育児の推奨やスウォッドリング批判が長い時間をかけて社会全体に広まり、親は子どもの固有の存在に関心をもち、子どもに対し寛容な距離をもって接するようになるのである。こういった変化の背景にはロックやルソーといった思想家の影響もあろうし、伝統的な家父長制度の漸進的衰退化傾向が観察できるかもしれない。子どもを子どもとして尊重するという意識が、子ども用の衣服や子ども向けの用具類を生み出すこととなった。カンバセーション・ピースと呼ばれる家族の肖像画がブームとなり始めたりするのもこの頃からで、子どもが家族の大切な一員として描き出された。その一方で家内工業を行なう世帯などでは、家業を維持するための重要な労働力として子どもに対する期待は大きくなった。
17世紀以前から『家政書』や『礼儀作法書』の類が書かれ、その流れをくむ『育児書』的なものも、子どもへの関心が増すにつれて多く現れるようになった。本文献集はそういった子どもの教育に関する手引き的論説から、子どもに残す遺言、子どもを巻き込んだ事件簿といったものまで、8世紀前半における「子ども」をキーワードにしたイギリスの文献の集成である。ひとつひとつの資料は特定の個人の名を付したものであっても、この時代の社会生活に広くゆきわたっていた行動様式の基準を示すものとみることができるだろう。子どもにあてたスポットライトは、子どもだけでなく母親や父親の役割、家庭のありよう、地域社会や信仰の意義など、多様な問題を浮かび上がらせもする。入手することが容易でない資料を多く含み、またさまざまな領域にまたがる文献であることが特色といえる。この時期の子ども観を概観するに際して、興味深い資料集となることを確信する。
収録文献明細:
Vol.1:
Monro, George
The just measures of the pious institution of youth represented according to
the maxims of the Gospel, in
several essayes. Pt. 1 Recommending upto parents, and others concerned, what
they owe more immediately
to the souls of children… London, 1701
Nichols, William
A treatise of consolation to parents for the death of their children…
London, 1701
Vol.2:
Gaius Seius
The mothers looking-glass: or, the concurrent judgement of the learned...
London, 1702
Taylor, Nathanael
Practical discourses on several important subjects; a discourse of the
children of holy parents. Chapter I & IV
London, 1703
Mortimer, John
Advice to parents; or, rules for the education of children
London, 1704
Anon.
An hundred godly lessons, that a mother on her death-bed gave to her
children...
Edinburgh, 1715
Fleetwood, William
The relative duties of parents and children, husbands and wives, masters and
servants; considered in sixteen
practical discourses, 2nd ed.
London, 1716
Vol.3:
Anon.
The indulgent parents, and rebellious children
London, 1718
Cooke, Shadrach
Consolation for parents upon the loss of children
London, 1721
Society of Friends
An epistle of caution and advice to parents, recommending a godly care for
the educating their children in a
Christian conversation
London, 1723
Swift, Jonathan
A modest proposal for preventing the children of poor people from being a
burthen to their parents, or the
country, and for making them beneficial to the publick
2nd ed., Dublin, 1729
Eminent Physician
The Nurse's guide; or, the right method of bringing up young children; the
right manner, and true method of
bringing up young children according to the rules of physick
London, 1729
Doddridge, Philip
Sermons on the religous education of children preached at Northampton
London, 1732
Vol. 4:
Author of the advantages of closet religion
A persuasive to family religion; and the obligation Christian parents are
under to the religious education of
their children...
1737
Anon.
Family religion: or, a guide to parents and masters, to children and
servants
London, 1741, 70pp
Barclay, James
A treatise on education: or, an easy method of acquiring language, and
introducing children to the knowledge
of history, geography, mythology, antiquities...
Edinburgh, 1743
Anon.
The common errors in the education of children, and their consequences...
London, 1744
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『子どもの文化史ー英国16‐18世紀文献集成』シリーズ続刊予定
第2回:18世紀後期初期文献集 全4巻 + 別冊解説(日本語)
Books on Children in 16th-18th Century Britain Series II (1751-1800)
第2回配本編集・解説: 向井秀忠(松山大学教授)
2007年9月刊行予定
予定価格\98,000 (本体セット)
ISBN:4-902454-30-0
第3回:16-17世紀文献集 全5巻 + 別冊解説(日本語)
Books on Children in 16th-18th Century Britain Series III (1571-1700)
第3回配本編集・解説: 鈴木実佳 (静岡大学助教授)
2008年春刊行予定
価格未定
ISBN:4-902454-32-7
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