●スコットランド旅行文化の形成に先鞭をつけたジョンソン、ギルピン、ペナントなど、先駆的作品の影響を受けて育まれた、18世紀末から19世紀初頭のロマン主義期に刊行された代表的な旅行記を集成
●ピクチャレスク美学からロマン主義的美学が醸成されていく、ピクチャレスク美学の伝統的規範から逸脱し、より崇高美へと接近した過程を捉える
●スコットやワーズワスらイギリス・ロマン派文学の作品理解、美学研究、また近代ツーリズムの歴史の研究に重要な作品群
◆収録予定文献
Volume 1:
A Lady[M.A.Hanway]
A Journey to the Highlands of Scotland, with Occasional Remarks on Dr. Johnson’s Tour
London: Fielding & N.D.Walker, 1776, xvi,163 pp.
Dorothy Wordsworths ( ed. by J.C. Shairp )
Recollections of a Tour Made in Scotland A.D. 1803
New York: G.P. Putnam’s Sons, 1874, xliv, 316 pp.
Volume 2:
Mrs. Murray[Sarah Murray]
A Companion and Useful Guide to the Beauties of Scotland to the lakes of Wentmoreland, Cumberland, and Lancashire; and to the Curiosities in the District of Craven, in the West riding of Yorkshire. Also A Description of Part of Scotland…, Vol. 1
London: W. Bulmer & Co., 1810, xii, 456 pp.
Volume 3:
Mrs. Murray[Sarah Murray]
A Companion and Useful Guide to the Beauties of Scotland to the lakes of Wentmoreland, Cumberland, and Lancashire; and to the Curiosities in the District of Craven, in the West riding of Yorkshire. Also A Description of Part of Scotland…, Vol. 2
London: W. Bulmer & Co., 1810, xvi, 436 pp.
Volume 4:
Robert Heron
Observations Made in a Journey through the Western Counties of Scotland; In the Autumn of MDCCXCIL,
Vol. 1
Perth: R.Morison, 1793, vi, 387 pp.
Volume 5:
Robert Heron
Observations Made in a Journey through the Western Counties of Scotland; In the Autumn of MDCCXCIL,
Vol. 2
Perth: R.Morison, 1793, iv, 514 pp.
Volume 6:
John Stoddart
Remarks on Local Scenery and Manners in Scotland during the years 1799 and 1800, Vol. 1
London: William Miller, 1801, xxiv, 310 pp. 18 pl.
Volume 7:
John Stoddart
Remarks on Local Scenery and Manners in Scotland during the years 1799 and 1800, Vol. 2
London: William Miller, 1801, xiii, 342 pp. 17 pl.
Volume 8:
Walter Scott
Provincial Antiquities and Picturesque Scenery of Scotland with Descriptive Illustrations
London, John & Arthur N.D.Arch, Cornhill, 1826, lii, 208 pp. 51 pl.
編集のことば
金津和美(同志社大学文学部)
湖水地方のみがイギリス・ロマン派文学を育んだ景勝地であったのではない。スコットランドもまた、その自然の美しさと歴史深さゆえに文人たちの想像力を掻きたて、数多くの文学作品を生み出したロマン主義的な土壌であった。
サミュエル・ジョンソン博士の『スコットランド西方諸島への旅』(A Journey to the Western Islands of Scotland, 1775)、ウィリアム・ギルピンの『ハイランド地方における観察』(Observations on the Highlands, 1789) 以降、スコットランドへのピクチャレスク旅行は一つの娯楽として定着する。旅行者の一人に『ハイランド生活日誌からの数葉』(Leaves from the Journal of our Life in the Highlands, 1868)などを出版したヴィクトリア女王がいたことを指摘すれば、その流行の息の長さと広さを理解するのに十分であろう。しかし、一世紀以上に及ぶスコットランド旅行の伝統を通じて、同じ風景美が求められ続けたわけでは決してない。ロマン主義期に出版・執筆されたスコットランド旅行記を中心に収めた本選集は、ジョンソン博士やギルピンによる啓蒙主義的審美観がいかに受容され、ロマン主義的審美観へと醸成されていったのか、「ピクチャレスク」が次第に「ロマンティック」と同義となる、その過程を読み解く資料として興味深い。
総じていえばスコットランド旅行記の特徴は、この国の歴史が示すように、常に風景の歴史性が問題とされることにある。ウォルター・スコットの歴史小説(ウェイヴァリー小説)はこういった旅行文化を背景として書かれたのであり、また、ロマン派を代表する詩人ワーズワスも旅行者の一人として度々スコットランドを訪れ、その独自の文化、歴史、そして風景美に様々な詩的テーマを見出している。彼らと関わりのある人物、ドロシー・ワーズワス、ストダート、ヘロンなどの作品を含んだ本選集は、ワーズワス研究、スコット研究のみならず、ロマン主義の自然観・歴史観を考察する上でも貴重な資料となる。
勿論、統合法以後の近代化によるスコットランドの変容(啓蒙主義の普及、都市の商業化、ハイランド放逐の実態など)を記録する旅行記は、スコットランド文化史・社会史の資料としても有益であろう。またネイチャー・ライティングの実践として、人間と環境、自然と文化、発展と保全の関係など、環境批評において重要な問題を数多く提起することも期待される。
文学史・文化史において周縁に位置づけられることの多いスコットランド旅行記であるが、イギリス・ロマン派という時代の中心を照らす資料として役立つことを願い、本選集を推薦する。
■関連既刊書■
ウェールズへの旅 〜英国18−19世紀紀行記・案内書復刻集成 全4巻+別冊解説
Picturesque Wales - Facsimile Reprints of ''Pennant's Tours'' and ''Wales Illustrated''
監修・解説:森野聡子(静岡大学)
2009年10月刊行
判型:A5 判(Vol. 1-3)/ B5判(Vol. 4)
総頁数:約1860頁(図版・白黒:156点)
価格 ¥98,000(本体セット)
ISBN: 978-4-902454-54-3
連合王国」の周縁にあり独自のルーツを持つウェールズ文化は、同じブリテン島のなかでイングランド文化と複雑に交渉しあいながら共存していますが、英国内でのウェールズへの関心は、18世紀のウェールズ文化復興と期を同じくする英国でのピクチャレスク・ツアーの流行が、景観鑑賞の対象としてウェールズの人気をよび、ウェールズ観光が誕生していった頃に端を発するとされます。この時代ウェールズの知識人やウェールズを訪れたイギリスの作家達は、様々な旅行記や旅行ガイドを執筆、積極的にこの文化復興や観光に関わり、ウェールズの地位向上に貢献します。
今回の集成では、この時代を代表する以下の2種の文献を復刻し、18紀末から19世紀にかけてのウェールズがどのように描かれ、イメージされていったのかを知るための基本史料として提供します。図版を数多く含むこれらの文献は、視覚資料としても価値が高く、研究、教育に広くご利用いただけます。
Volume 1-3 (size: A5)
Preface by Satoko Ito-Morino
Thomas Pennant (edited by John Rhys)
Tours in Wales, by Thomas Pennant, with Notes, Preface and Copious Index by
John Rhys, Professor of Celtic in the University of Oxford, to which is
added, An Account of the Fine Tribes of Cambria, and of the Fifteen Tribes
of North Wales, and their Representatives, with their Arms, as given in
Pennant's History of Whiteford and Holywell, new edition, 3 vols.
Caernarvon: H. Humphreys, 1883, c.1500pp. (44 plates.)
●1778年から6年を費やし刊行された、トマス・ペナント(1726-98)による大著。初の総合的ウェールズ・ガイドとして知られる最重要文献。死後1810年にロンドンで刊行された新版が、ウェールズ・ガイドの決定版として19世紀を通し利用されたが、今回は、その1810年の版を底本に19世紀の著名なケルト学者ジョン・リーズ(学生の大半がウェールズ人であったオックスフォード大学ジーザス・カレッジの学寮長)が、解説、注釈、付録資料、索引を加え、ウェールズにて1883年に出版した貴重な学究版を復刻。
Volume 4 (size: B5)
Henry Gastineau
Wales. Illustrated, in a Series of Views, comprising the picturesque
Scenery, Towns, Castles ... Engraved on steel, from Original Drawings, by H.
Gastineau. Accompanied by Historical and Topographical Descriptions.
London: Jones & Co., 1830, c. 360pp. (112 plates)
●英国の風景画家ヘンリー・ガスティノーが描いたウェールズの100箇所強の名所旧跡に、各地の地理や文化、歴史についての簡潔な解説を加えた、19世紀ウェールズのヴィジュアル版百科。
別冊解説(日本語):森野聡子 |