分野:英国文化史・文学研究、ヴィクトリア朝文化研究、英国美術・メディア史、科学技術史
1862年国際博覧会(第2回ロンドン万国博覧会)資料総覧
〜公式図解カタログと『絵入り家庭新聞』国際博覧会特集〜(復刻版全5巻+別冊解説)
The International Exhibition of 1862, London: Official Illustrated Catalogue & Cassell's Illustrated Family Paper Exhibitor
監修・解説:松村昌家(大手前大学名誉教授)


2014年2月刊行 
総約3,400頁(全5巻+別冊)折込地図・図版(一部カラー)多数 / 判型:B5判(第1-4巻)、A4判(第5巻)
価格: \168,000 (本体セット)
ISBN: 978-4-902454-82-6

1862年にロンドンで開催された国際博覧会(第2回ロンドン万国博覧会)は、アルバード公死去翌年の開催だったこともあり、水晶宮で行われた第1回ほど華やかさに欠けてはいましたが、世界各地より39か国が参加、1862年5月から半年間に610万人が来場し、会場のスペース含めその規模において第1回ロンドン万博を上回るものでした。クリミア戦争や植民地インドでの反乱などを経験した英国でのこの万博は、大英帝国の国家主義が強く打ち出され、軍需産業品や最新の工業製品が広く展示されましたが、また同時に、植民地各地の展示やライバルのパリ万博を意識した美術・工芸品の展示にも大きなスペースを割き、ヴィクトリア中期の大英帝国や世界の最先端の科学・技術、文化・芸術が結集した歴史的なイヴェントでした。
幕末の日本からは、正式な出展はなかったものの、初代駐日英国公使ラザフォード・オールコックが自身の日本美術品のコレクションを多数出品し、イギリスのジャポニスム・ブームに火をつけることになりました。また、開港延期の交渉に幕府より派遣されていた文久遣欧使節はこの万博の開会式に賓客として出席しましたが、使節団の中には福澤諭吉、福地源一郎らも含まれており、彼らがアームストロング砲など西洋の最新兵器や技術に大きな刺激を受けたことは想像に難くありません。
今回の復刻資料集には、第1回ロンドン万博から第2回万博に至る歴史などの解説を含む英国展図入り目録全2巻に、植民地や海外各国の目録各種をまとめ全4巻で刊行された公式資料集に、キャッセル社が発行した『絵入り家庭新聞』の国際博覧会特集を加え全5巻にて出版いたします。いずれも初めて復刻される資料です。博覧会史、ヴィクトリア朝研究、大英帝国史、日英交流史などから科学技術史、産業史、社会経済史研究まで、分野を超えてご利用いただける文献集です。

◆推薦文◆
1862年国際博覧会(第2回ロンドン万博)資料総覧 
― 公式図解カタログと Cassell’s Illustrated Family Paper Exhibitor の復刻版刊行に寄せて     
松村昌家(大手前大学名誉教授)

1851年のロンドン万国博覧会の公式カタログ全4巻の復刻版が刊行されて以来、待望久しかった『1862年国際博覧会公式図解カタログ』(Official Illustrated Catalogue of the International Exhibition 1862)全4巻とCassell’s Illustrated Family Paper Exhibitor とがセットでユーリカ・プレスから復刻刊行されることになった。
国際博覧会は、1851年万博の水晶宮の輝きや、さまざまなドラマティックな出来事の陰に隠れてやや魅力に乏しいと思える面があるが、その歴史的・文化的な意味においては、むしろ前者を凌ぐものがある。この博覧会が、1851年万博のあと1855年のパリ万博と1857年のマンチェスター美術名宝博覧会を間に挟んで開催されたということは、きわめて重要な意味をもつ。それは、国際博覧会がその目玉の一つとして、広大な面積のアート・ギャラリーズを具えていたことに、端的に現れていたといえよう。
万博開催のあらゆる面で、競争相手のフランスより一歩先んじていたイギリスだが、唯一美術部門では格段の差があることが、1855年パリ万博を通じてもろに照らし出された。マンチェスター美術名宝博もこういった事情と無関係でなかったが、62年の国際博では、そのコンプレックスを振り払うことが、一つの重要な課題となっていたのである。イギリスの万博文化史の観点から注目すべき出来事であり、また美術史とも関わる問題として、興味をそそられるのである。
かつてイギリスの歴史学者R.H. モットラムは、1851年の万博が一つの大きなイヴェントであったのに対して、1862年の国際博覧会は、一つの大きなショウ(見世物)であった、と言ったことがある。その見世物の中心をなしたのは、大小さまざまな新兵器だ。世界平和をモットーとし、産業の発達を謳歌して開かれた51年万博の後を追ってやってきたのは、皮肉にもクリミア戦争(1853−56)であった。そして新兵器の製造が産業の勝利を占めるようになっていたことが、図解公式カタログにも鮮明に反映されるようになる。
われわれにとって特に重要なのは、このような時代の推移が、幕末の日本の歴史と密接につながっているということだ。国際博覧会見学の機会に恵まれた幕末遣欧使節団の面々が、展示されていた最新兵器の王者となっていたアームストロング砲にいかに深い関心を寄せていたか、その実情を探るためには、まず国際博覧会の公式図解カタログに手掛りを求めなければならないだろう。
それからもう一つ、日英文化交流の面で重要なことがある。この博覧会展示場に当時の駐日イギリス公使ラザフォート・オールコックによって蒐集された多数の日本製品が陳列されていたことである。日本政府が関与せず、オールコック個人による急ごしらえの展示品とあって、これを見る使節団の目は冷ややかだったが、イギリス側の受け取り方は全く違っていた。ジャポニズムはここにはじまったといってよいほど高い評価を得た工芸品が中に多く含まれていたのである。
そこで見逃してならないのが、キャッセル社で発行された『絵入り家庭新聞』の国際博覧会特集に収められている「展示場の日本」(“Japan at the Exhibition”) である。1862年の国際博覧会における日本からのいかなる展示品がどのような評価を受けていたかを認識するためには、この記事と公式カタログ第4巻における日本の部との相互照合が不可欠である。
しかし、『キャッセル版絵入り家庭新聞』国際博特集の効用は、もちろん日本関連の記事だけに留まらない。博覧会展示場の設定や配分、そしてアート・ギャラリーズの構成に関する貴重な平面図が掲げられており、主要展示品約300点が、解説付きで収録されているのである。この一書はいわば公式カタログのサプリメントとして、重要な役割を果たすことであろう。
『日英博覧会(1910年)の公式資料と関連文献集成』(2011年刊)につづいて、大英帝国博覧会研究に向けてのさらなる珍貴資料の復刻版を公刊したユーリカ・プレスの心意気に喝采を送りたい。

■CONTENTS■
Volume 1-4:The Illustrated Catalogue of the International Exhibition of 1862, London
Printed for Her Majesty's Commissioners

Vol. 1 (c. 835 pp.) :
The Illustrated Catalogue of the Industrial Department, British Division - Vol. I
Grand Plans of Building and of Galleries
A Concise History of the International Exhibition of 1862
The Illustrated Catalogue of the Industrial Department, British Division
Class I: Mining, Quarrying, Metallurgy, and Mineral Products
Class II: Chemical Substances and Products, and Pharmaceutical Processes
Class III: Substances Used for Food
Class IV: Animal and Vegetable Substances used in Manufactures
Class V: Railways Plant, including Locomotive Engines and Carriages
Class VI: Carriages not connected with Rail or Tram-roads
Class VII: Manufacturing Machines and Tools
Class VIII: Machinery in General
Class IX: Agricultural and Horticultural Machines and Implements
Official Illustrated Catalogue Advertiser

Vol. 2 (c. 875 pp.):
The Illustrated Catalogue of the Industrial Department, British Division - Vol. II
Class X: Civil Engineering, Architectural, and Building Contrivances
Class XI: Military Engineering, Armour, and Accoutrements, Ordnance and Small Arms
Class XII: Naval Architecture - Ships' Tackle
Class XIII: Philosophical Instruments, and Processes depending upon their Use
Class XIV: Photographic Apparatus and Photography
Class XV: Horological Instruments
Class XVI: Musical Instruments
Class XVII: Surgical Instruments and Appliances
Class XVIII: Cotton
Class XIX: Flax and Hemp
Class XX: Silk and Velvet
Class XXI: Woollen and Worsted, including Mixed Fabrics Generally
Class XXII: Carpets
Class XXIII: Woven, Spun, Felted, and Laid Fabrics, as Specimens of Printing or Dyeing
Class XXIV: Tapestry, Lace, and Embroidery
Class XXV: Skins, Furs, Feathers, and Hair
Class XXVI: Leather, including Saddlery and Harness
Class XXVII: Articles of Clothing
Class XXVIII: Paper, Stationery, and Printing, and Bookbinding
Class XXIX: Educational Works and Appliances
Class XXX: Furniture and Upholstery, including Paper-hangings and Papier-mache
Class XXXI: Iron and General Hardware
Class XXXII: Steel, Cutlery and Edge Tools
Class XXXIII: Works in Precious Metals, and their Imitations, and Jewellery
Class XXXIV: Glass
Class XXXV: Pottery
Class XXXVI: Dressing Cases, Despatch Boxes, and Travelling Cases
Index

Vol. 3 (c. 560 pp.):
The Illustrated Catalogue of the Industrial Department, Colonial and Foreign Divisions
Colonial Possessions
Australia, South
Australia, Western
Bahamas
Barbados
Bermuda
Borneo
British Columbia
Canada
Cape of Good Hope
Ceylon
Channel Islands (Jersey and Guernsey)
Dominica
Hounduras, British
Jamaica
Malta
Mauritius
Natal
New Brunswick
Newfoundland
New South Wales
New Zealand
Nova Scotia
Prince Edward's Island
Queensland
St. Helana
St. Vincent
Tasmania
Trinidad
Vancouvre
Victoria
A Classified and Descriptive Catalogue of the India Department
The Illustrated Catalogue of the International Exhibition, Foreign Division
Africa, Central
Africa, Western
Belgium
Brazil
China
Costa Rica
Denmark
Ecuador
France
France, Colonies of

Vol. 4 (c. 780 pp.):
The Illustrated Catalogue of the Industrial Department, Foreign Division
Germany: Austria at the International Exhibition of 1862
Hanse-Towns
Mecklenburg-Schwerin
Special Catalogue of the Zollverein-Department, First Division
Special Catalogue of the Zollverein-Department, Second Division
Greece
Hawaiian or Sandwich Islands
Hayti
Ioneian Islands
Italy
Japan
Liberia
Madagascar
Netherlands, The
Norway
Peru
Portugal
Rome
Russia
Siam
Spain
Sweden
Switzerland
Turkey
United States
Uruguay
Venezuela

Volume. 5 (c. 315 pp.):
Cassell's Illustrated Family Paper Exhibitor - containing About Three Hundred Illustrations, with letter-press descriptions of all the principal objects in The International Exhibition of 1862
Published by Cassell, Peter, & Galpin, London, 1862

別冊日本語解説(松村昌家)

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