●労働者階級の少年向けの週刊誌 Boys of England を成功させた編集者Edwin J. Brettが1886年に創刊、自ら編集した女性向けの大衆小説週刊誌。
●第955号(1904年)まで刊行が続けられたペニー・マガジンで、本復刻では創刊号より約3年分(全6巻)の全号を収録する。
●各号16頁は読み切りの小説1点と号末の王室やセレブリティーに関する短いゴシップ記事からなり、イラストも数多く掲載されている。
●内容はほとんどがロマンティックな恋愛物語で、その後の少女向け大衆小説、今日のハーレクイン・ロマンスやライト・ノヴェルの系譜につながる。
●比較的資料の揃っているヴィクトリア時代の中流階級の女性向け出版物に対し、同時代の資料がわずかに散在するだけで研究の対象になりにくかった女性向け大衆誌を復刻し、この時代の労働者階級の女性の読書体験や生活史研究の一次文献として提供する。
●原本は国内外図書館の所蔵もほとんどない極めて入手の困難な文献で、英国19世紀女性史、女性文学、児童文学の資料として大変貴重。
各巻収録年号
Vol. 1: March 9, 1886 - August 31, 1886 (Vol. I # 1-26, incl. A Summer Number), 432 pp.
Vol. 2: September 7, 1886 - February 22, 1887 (Vol. II # 27-51, incl. A Christmas Number), 416 pp.
Vol. 3: March 1, 1887 - August 9, 1887 (Vol. III # 52-75, incl. A Summer Number), 416 pp.
Vol. 4: August 16, 1887 - January 31, 1888 (Vol. IV # 76-100, incl. A Christmas Number), 416 pp.
Vol. 5: February 7 - July 24, 1888 (Vol. V # 101-125, incl. A Summer Number), 416 pp.
Vol. 6: July 31, 1888 - January 22, 1889 (Vol. VI # 126 ? 151, incl. A Christmas Number), 432 pp.
第1巻収録作品
Laura Temple, A Perilous Love / Alice Gunter, The Black Pearl / Wray Lindsay, The Mysteries of Kenyon Court / Sapphire, Shall We Meet Again / Effie Raleigh, A Double Disguise / Alice Gunter, A Mountain Fairy / Anon., The Rivals / Anon, Kitty, A Pastoral / Sapphire, Two Dreams /Anon., Loved She Wisely, or Too Well? / Anon., An Unknown Peril / Anon., A Cloud Maiden / Wray Lindsay, Woman's Crime / Anon., Wrecked / Anon., The Story of Wilmot's Wife / Anon., In My Lady's Keeping / Anon., A Fatal Promise / Alice Gunter, Struggle and Strife; A Woman's Life / Wray Lindsay, Who Was Guilty? / Laura Temple, Through the Woods; or Sylvia's Trust / Anon., A Woman's Love and Hate / Anon., I Promise / Anon., Carried by Storm / Alice Gunter, That Fatal Fifth /Anon, Two Secrets / Anon, The Gipsy's Curse
監修者の言葉
川端有子(日本女子大学)
『プリンセス・ノヴェレット』(The Princess’s Novelettes)という雑誌は、エドウィン・J・ブレット(Edwin J. Brett 1827-95)が1886年から刊行し、労働者階級から中流階級の若い女性に非常に人気のあった短編小説を載せた週刊誌である。この雑誌の所在は、たとえば労働者階級の女性の手記や日記などから、題名は知られているが、今までほとんど研究されたことも、内容が吟味されたこともなかった。なぜなら、全世界でこの雑誌を一部でも所蔵しているのは十館程度の図書館にすぎず、大英図書館においてすら全巻を保存はしていないからである。国内の図書館ではまったく所蔵が確認されていない。
また、エドウィン・ブレットはもっぱら研究者の間で、少年読み物の編集者として知られている。彼は、「ペニードレッドフル」を刊行して、スリルとサスペンス、ホラーと冒険で少年たちを魅了し、また絶大な人気を誇っていた、宗教叢書協会発行の『ボーイズ・オウン・ペーパー』(The Boy’s Own Paper, 1879-1967)の向こうをはった『英国の少年たち』(The Boys of England, 1866-99)の編集者として有名であり、二十一種類の少年向け読み物新聞を手がけたことは、つとに知られているが、少女向けの出版に手を染めていたことは、どの研究書や解説を見ても明らかにされていない。
この女性向けの読み物新聞は、おもに上流階級の世界を舞台にしたロマンスや、ロマンティックなミステリーなど、短編小説を一号につき一篇と、ちょっとしたゴシップ記事を一面載せ、一ペニーで売り出されており、そんな華やかな上流の生活とは無縁の、都会の女店員やメイドなどに広く愛読されていたようである。安価なわりには豊富な挿絵の質がかなり高く、ブレットは、若い女性読者を惹きつけるこつもよく知り抜いていたように思われる。
この雑誌の初期の巻の復刻により、今まで「中流階級でない」ため、「若い女性」向けであるため、二重に周縁化されて研究が進んでいなかった層への、ヴィクトリア朝文化研究のすそ野の拡がりが、大いに期待される。 |