対象分野:アイルランド史、アイルランド文学、イギリス近代史、ヴィクトリア朝文化、旅行・観光史 | |||
Ireland in the 19th Century through Travellers’ Guides |
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1801年にブリテン(イギリス)とアイルランドが合同し連合王国が発足して以降、両国の政治、経済、文化の関係は緊密さを増し、人的な交流も盛んになります。本書はその19世紀に連合王国で刊行された旅行ガイドを、数多くの図版や折込み地図など含め復刻するコレクションです。合同から世紀半ばの大飢饉、自治を求める運動が盛んになる世紀後半へと、激しく変化するアイルランドの19世紀が俯瞰できるよう、それぞれの時代の特色ある5種の文献を収録します。 アイルランド史研究としてだけでなく、アイルランド文学研究の背景資料や文化史、近代ツーリズム研究の資料としてご利用いただけます。 編者より 今回復刻されるアイルランド旅行ガイドコレクションは、さまざまな意味で注目に値する。第一に、これらのガイドは主にブリテン(イギリス)からの旅行者向けに書かれたものだが、物価や移動手段、宿場町の様子、名所旧跡といった旅の実用情報だけでなく、当時のアイルランド社会についての観察記録や図像も含んでいる。有用かつ興味深い歴史史料である。 歴史史料として見ると、本コレクションから最初に読み取ることができるのは、アイルランドの空間的多様性である。これが第二の注目点である。一般に旅行ガイドは地域ごとの相違を強調するが、特にアイルランドの場合、自然条件の違いに加えて、12世紀以来数度に渡ってイングランド/スコットランドによる征服・植民を経験してきたことも大きい。このためブリテン島に近い北・東部と、離れた南・西部とではかなり違った社会が形成されており、さらに19世紀には北部で工業化が進み、地域の違いに拍車がかかることになる。 第三の注目点として、時間的な変化についてもこのコレクションは雄弁であり、19世紀に起こった大きな社会変動を跡づけている。例えば、アイルランドは世紀前半の人口過剰気味の社会から世紀末の人口減少に悩む社会に変わり、田園風景の主役も、麦畑とジャガイモ畑から、牧草地でのんびり草を食む牛や羊に変わる。また特にこのコレクションには、世紀半ばの大飢饉の直前・直後の旅行ガイドが収録されており、大飢饉の衝撃の実像(そして虚像)についても情報を与えてくれる。 第四の注目点をあげると、連合王国の複合的なアイデンティティの問題についても示唆的である。19世紀のイングランドやスコットランドの人間は、同一の国家に属したはずのアイルランド人を同胞として見ることはなく、むしろ、アイルランド人との違いを意識することで自らのアイデンティティを作りだすことさえあった。このような「内なる他者」としてアイルランドを見る傾向が最も強かったのが旅行者であり、この意味でこのコレクションは、19世紀のアイルランドだけでなくブリテンについても何事かを教えてくれる史料となっていると言えよう。 収録タイトル: Volume 2: Volume 3: Volume 4: Volume 5: |