*少年・少女向けの書物に「日本」が現れ始める19世紀前半から、ヴィクトリア朝期のジャポニズムの流行を経てその終焉を迎える20世紀前半までに英米で刊行された児童書向けの著作を精選復刻。
*最初期のアイザック・テイラーの『全世界の情景』から、宣教師による少年向けと少女向けの本、「アリスの不思議の国よりも不思議」な日本を子どもに語ったアンガス著『当東洋のワンダーランド』、20世紀初頭の日本や日本人を題材にした読物や知識の本、そして第2次大戦前の人文地理の教材まで、多様な文献14点を多くの図版とともに収録。
*英語圏での子どもの本のなかで、日本や日本人のイメージがどのように表象されてきたのか、その変遷を年代順に俯瞰。
*異文化としての「日本」への理解や誤解、そして偏見が大英帝国時代の子ども達に形成されてゆく過程を、文献から読み解く。
*英米児童文学、比較文学、文化研究、そして「帝国」や「人種」研究の資料としても利用可能。
『子どもの本の中の日本』文献集の学術的意義
梅花女子大学名誉教授 三宅興子
19世紀のイギリス児童文学作品を、来る日も来る日も読んでいたある夏休みに、ある時期から、日本や日本人についての表出が多くなったことに気付いた。それは後にはっきりとした形でわかってくるのだが、イギリスの近代化による他国との交流の歴史と呼応するものであったのだ。子どもの本は、記述が簡略であったり、わかりやすくするため、非常に鮮明にその過程が浮かび上がっていたのである。
それ以降、意識的に収集をはじめたのだが、そこから引き出せたテーマは数多い。
○物語で使われる日本と、知識の本の中に描かれた日本に差があること。
○作者が実際に日本体験をしている場合と、得た情報を組み合わせて構築したものには相異がみられ、必ずしも直接体験の旅行記の記述が信
頼にたるとはいえないこと。
○20世紀初頭には、富士山、寺院、芸者、人力車など、日本のイメージが固定化し、それらが多様な作品に繰り返し表出していること。
等々。
文学だけでなく、カルチュラル・スタディーズの資料として、またこの時代の国際理解を考える時にも、絵やイメージにどう異文化日本が表されているかなど、取り上げたい課題は多岐にわたっている。『子どもの本の中の日本』というタイトルで集められたこの復刻集が、多彩な学術的取り組みと関連性を持ち、それらを深化させていく起爆剤となることを願っている。
●収録文献[予定]●
Vol.1:(c.435 pp)
Taylor, Isaac
Scenes in Asia for the Amusement & Instruction of Little Tarry-at-home
Travellers
London: Harris & Son, 1819, c.125 pp.
Dalton, William
English Boy in Japan: or the Perils and Adventures of Mark Raffles
London: T. Nelson & Sons, 1859, c.310 pp.
Vol.2: (c.355 pp.)
Stock, Eugene
Boys and Boys - A Missionary Book
London: Church Missionary Society, 1896, c.130 pp.
Stock, Eugene
Girls and Girls - A Missionary Book
London: Church Missionary Society, 1896, c.130 pp.
Wade, Hazelton Mary
(Illustrated by Bridgman, L.J.)
The Little Japanese Girl
London: Ward, Lock & Co., 1903, c.95 pp.
Vol.3: (c.350 pp.)
Angus, D.C.
Japan, The Eastern Wonderland
London: Cassell, Peter and Galpin & Co., 1882, [+ Plates from 1904 edition
and an additional chapter on the new Japan by F. Hadland Davis from 1910
edition] c.240 pp
Finnemore, John
(Illustration by du Cane, Ella)
Japan, Peeps at Many Lands
London: A & C Black, 1907, c.96 pp
Vol.4: (c.355 pp)
Eggleston-Haskell, Helen
(Illustrated by Fairbanks, Frank P.)
O-Heart-San, The Story of a Japanese Girl
Boston: L. C. Page & Co., 1908, c.135 pp.
Parsons, Nell
The Little Japanese Girl
London: Robert Culley, 1909, c.110 pp.
McDonald, Etta & Dalrymple, Julia
Ume’San in Japan
Boson: Little Brown, 1909, c.150 pp
Vol.5:(c.280 pp)
Kelman, Janet Harvey
Children of Japan
Edinburgh & London: Oliphant, Anderson & Ferrier, 1910, c.95 pp.
Perkins, Lucy Fitch
The Japanese Twins
Boston & New York : Houghton Mifflin, 1912, c.177 pp.
Vol.6:(c.385.pp)
Horniblow, Edmund Charles Thomas
Lands and Life, Human Geographies: People and Children of Wonderful Lands
London & Glasgow: Grant Educational Co., 1927,
c.158 pp.
Horniblow, Edmund Charles Thomas
Lands and Life, Human Geographies: Africa, Asia and Australia
London & Glasgow: Grant Educational Co., 1935,
c.225 pp. [1st ed. 1931] |