19世紀アメリカを代表する女性作家、詩人、ジャーナリストで反奴隷運動、女性や先住民族の権利のための活動家としても知られるリディア・マリア・チャイルド(Lydia Maria Francis Child, 1802-1880)は、非常に幅広い執筆活動を行いましたが、自ら子ども向けの雑誌Juvenile Miscellanyを創刊してことからもわかるように、家庭や育児の問題に早くから強い関心を抱き、子どもや若者むけの読物、教育書を数多く執筆しています。
アメリカ19世紀の子ども、家庭向けの教育書、物語などを集成し、独立革命以降のアメリカ市民・中産階級の形成過程を同時代の文献から読み解く、Books for Boys and Girls in the 19th Century America
Series の第3回−5回配本では、このチャイルドの子どもや母親向けの著作を3つのカテゴリーに大別し集成いたします。
第1回の「子どものための著作集成」では、20代前半のチャイルドが匿名でボストンの小出版社から刊行した、児童教育書を始め、4年間かけ3冊で出版した大著Flowers for Children Pt. I-IIIな10件の文献を収録する予定です。
●収録予定タイトル(編集の都合での変更の可能性がございます。)
Vol.1: (c.570pp.)
Evenings in New England, intended for Juvenile Amusement and Instruction, by
an American Lady
Boston: Cummings, Hillard & Co., 1824, c.185pp.
The First Settlers of New England: or, Conquest of the Pequods, Narragansets
and Pokanokets: As Related by a Mother to Her Children, and Designed for the
Instructions for Youth, by a Lady of Massachusetts
Boston: Munroe & Francis / New York: Charles S. Francis, 1829, c.295pp.
Biographical Sketches of Great and Good Men Designed for the Amusement and
Instructions of Young Persons
Boston: Putnam & Hunt, 1829 (first ed.), c.89pp.
Vol. 2: (c.680pp.)
The Little Girl's Own Book
New York: Clark, Austin & Co., 1849 (first ed. in 1833), c.288pp.
Rose Marian and The Flower Fairies, adapted from the German Legend
Boson: Crosby, & Ainsworth, 1865 (first ed. in 1839) c. 46pp.
Fact and Fiction: A Collection of Stories
New York: C.S. Francis & Co., 1847 (first ed. in 1846), c.282pp.
The Gift Book of Biography for Young Ladies, pp. 209-262 only
London: Thomas Nelson, 1847, c.60pp.
Vol. 3: (c.560pp.)
Flowers for Children, Part I, II & III
New York: C.S. Francis & Co., 1852 (first ed. in 1844-1847) c.552pp.
Vol. 4: (c.495pp.)
Rainbows for Children
Boston: Ticknor and Fields, 1868 (first ed. in 1847) c.180pp.
A New Flower for Children
Boston: Crosby, Nichols, Lee & Co., 1861 (first ed. in 1855) c.311pp
■ 続刊予定
リディア・マリア・チャイルド著作集A〜母と家庭のための著作集成〜
Lydia Maria Francis Child - Collected Works for Mothers
Books for Children and Youth in the 19th Century America, Series IV
ISBN: 978-4-86166-124-2
*収録予定:
The Family Nurse; or Companion of the American Frugal Housewife / The
Mother's Book / Biographies of Good Wives など。
リディア・マリア・チャイルド著作集B〜子どものための物語選集〜
A Collection of Anthologies for Children, edited by Lydia Maria Child
Books for Children and Youth in the 19th Century America America, Series V
ISBN: 978-4-86166-125-9
*収録予定:
The Coronal, A Collection of Miscellaneous Pieces / The Oasis / Autumnal
Leaves: Tales and Sketches in Prose and Rhymesなど。
■ シリーズ既刊
『アメリカ19世紀の少女・少年のためのコンダクト・ブック』復刻集成 16タイトル・合本5巻
A Collection of Conduct Books for Girls and Boys in 19th Century America
Books for Children and Youth in the 19th Century America, Series I
2007年6月刊行 c.3,000 pp. ISBN 4-86166-044-0 本体価格\118,000
『アメリカ19世紀の若者のためのコンダクト・ブック』復刻集成 14タイトル・合本6巻
A Collection of Conduct Books for Young Women and Men in 19th Century
America
Books for Children and Youth in the 19th Century America, Series II
2008年9月刊行 約3,050pp 2008年9月刊行 ISBN 978-4-86166-045-0 本体価格\128,000
■ 推薦文 本シリーズ刊行の意義
有賀夏紀 (埼玉大学)
独立革命以来二百数十年、アメリカは共和国を支える市民を育てることに力を注いできた。ヨーロッパ出身の中産階級の国民に始まり、各地からの移民をアメリカの良き市民にする努力は今日まで続いている。その市民教育のために、行儀作法、生活の仕方、教訓などを示した様々な指南書が利用されてきた。19世紀にはコンダクト・ブックとよばれる書物が盛んに出版され、主として中産階級の少年・少女たちは家庭や学校でこれらの読み物を通して、アメリカ市民のあるべき姿を教えられ成長していった。
この『アメリカ19世紀の少年・少女のためのコンダクト・ブック』シリーズは、19世紀初めから中頃にかけて書かれた著作を復刻したものであり、当時の著名な教育者、作家による少年・少女向けの物語や逸話、詩を含めた長編や短編からなっている。これらの作品を読むと、当時の市民教育のテーマとして、家族、教育、キリスト教、男女の相違、非西欧世界への優越感が浮かび上がってくるだろう。独立革命以来アメリカ人を支配してきた市民像の内容が明らかにされ、キリスト教道徳観が貫く中で、家族の重要さ、教育の有用性、ジェンダー、非西欧世界に対する優越ないし差別意識が示されている。19世紀にこうしたコンダクト・ブックの教育を受けて中産階級が成長し、その後中産階級がアメリカ社会の主流となってきたことを考えると、最近までアメリカ社会・国家を動かしてきた価値観も良く理解される。
本シリーズは、直接的には19世紀の子供の教育や児童文学を研究するための一次資史料のように見えるが、その意味はさらに広い。当時の生活、また、現在に至るまでのアメリカ市民の意識およびその形成過程を、一般国民の側から知る手がかりとなり、アメリカ史、社会史研究にとって有益な一次史料となっている。 |