世紀末のアメリカ西海岸文化にひろがるボヘミアニズムは、単身日本を離れサンフランシスコに移り住んだヨネ・ノグチに強い刺激を与えました。とくに、この風潮のなかで若き詩人や芸術家が、表現の場として自ら作り出していった多くのリトル・マガジンは、詩人としての成功を夢見るノグチにとっても大変魅力的な発表の場だったようで、さまざまなボヘミアン雑誌へ詩の投稿を始めます。そのなかで、ノグチの才能に注目したのがThe Lark 誌です。詩人Gelett Burgessと芸術家Bruce Porter を中心にしたLes
Jeunneという名称のグループが発行していたこの詩誌は、1896年7月号の巻頭に一挙5篇のノグチの詩を掲載し、詩人としてのデビューの場を彼に与えました。その作品はその後も定期的に本誌面を飾り、雑誌廃刊後には、BurgessとPorterの尽力で初めての詩集Sea and
Unseen、そしてThe Larkの発行者William Doxeyが第2詩集The Voice of the Valleyを出版し、詩人として認められることになります。同じ頃ノグチは、The Twilightという8頁のガリ版刷雑誌を手作りし、
自らの韻文作品をM. Takahashiというイラストレータ (?) の挿絵とともに出版し、販売することも試みます。これは、わずか2号で廃刊してしまうものの、この時代のアメリカ西海岸で、無名の日系詩人が身を置いていた文化的環境を、今でもいきいきと伝えてくれる、貴重で魅力的な文学資料です。
英米での成功の後、帰国しすでに国際詩人としての名声をほしいままにしていたノグチは、内外の詩人達との交流を広げ、「あやめ会」という詩人の会を主宰、その会から英和2ヶ国語による詩の小雑誌The Iris(「あやめ會詩集」)を創刊します。The Larkにノグチの詩が掲載されてからちょうど10年後のことです。当初季刊誌を目指したこの詩誌は、会の内紛などもあり2号しか刊行されずに終わりますが、日本から蒲原有明、岩野泡鳴、上田敏などの新体詩人、英米からArthur
Symons, W. B. Yeats, Mary Fenollosaらの作品が誌面を飾っています。
ヨネ・ノグチの英文著作を復刻にて集成するシリーズの第3集は、これら3誌の全号を復刻収録いたします。国際詩人ノグチを育てたこれらの小雑誌は、ノグチ研究の文献であるだけでなく、アメリカ・モダニズム詩・文化と日本の近代詩史の比較研究などにも役立つ貴重な文献です。少部数発行のこれらの雑誌は、すでに稀覯文献となっている上、紙質も悪く原本の研究への使用も難しくなっております。どうぞこの復刻版を広くご活用ください。
Contents:
Volume 1 & 2: (c. 210pp. + c. 220pp.+ c.16pp.)
The Lark: Book I (Nos. 1-12: May 1895-April 1896)
The Lark: Book II (Nos. 13-24: May1896-April 1897)
The Epilark. (May 1897)
William Doxey, San Francisco, 1896. Together 25 numbers in 2 volumes.
Illustrated.
The Twilight (No. 1 & 2: May & June 1898)
Published by Yone Noguchi, San Francisco
Volume 3: (c. 280pp.)
The Iris, A Quarterly Magazine of Poetry, No. 1 (June 1906) - 『あやめ草』(あやめ會詩集1)
The Iris, No. 2 (September 1906) - 『豊旗雲』(あやめ會詩集2)
|