●パブリック・スクールに代表される英国教育システム「基金立学校」に関する
最大の史・資料
●19世紀の教育近代化研究の貴重な文献
●国内大学には所蔵の極めて少ない稀覯書
英国中等教育システムの特色は、公立校と併存するチャリティーによる「基金立学校」(Endowed
Grammar School) にあるといえます。イートン、ハーロウ、ラグビー校などの「パブリック・スクール」に代表されるこれら基金立学校は、ウィンチェスター・カレッジの創立された14世紀から英国中等教育の根幹を形成してきましたが、18世紀後半の社会の近代化にともないそのあり方も変革を始め、現代にいたる教育システムとしての基盤が出来上がってゆきます。
本書の著者カーライル(Nicolas
Carlisle, 1771-1847) は地誌学者として著名でしたが、この変革期の1816年にブルーム(Henry
Brougham)により設置された下院のチャリティー教育委員会 (The Charity Commission)
の委員に選出され、この問題の本格的な調査に入ります。
調査委員会の報告に先駆け1818年にカーライルにより発表された本書は、著者自身がイングランドおよびウェールズにある全ての基金学校で実施したアンケートをもとに編集されたもので、合計475校の統計や歴史データがあつめられています。このデータは後の公的調査の基礎資料としても大きな影響を与えたものであり、英国基金学校に関する史・資料として類のないものです。各巻地域別アルファベット順の構成で、最終巻には索引が付されています。
英国教育史、19世紀史研究の基本文献として大学図書館、研究室での購入を是非ご検討ください。
■各巻明細■
Vol. 1: Introduction / Bedford - Derby
Vol. 2: Devon - Hertford
Vol. 3: Huntingdon - Lincoln
Vol. 4: London - Oxford
Vol. 5: Rutland - Sussex
Vol. 6: Warwick - South Wales / Index
推薦文 「カーライルとブルーム調査委員会の功績」
東北大学 宮腰英一
英国公教育制度形成の起点がしばしば1870年フォスター法に求められるが、しかしボランタリズムの学校体制の不備を補うべく国が教育改革に着手したのは、早くも1816年急進的改革派ヘンリー・ブルームを委員長とする「首都の下層階級の教育状況を調査するための特別委員会」であった。1818年6月3日の第3次報告書は、貧民教育の状況、民間営為の限界、教育の普及とその方策、教育関係のチャリティ基金の濫用問題などを指摘し、国民教育制度形成への第一歩を築いた。
それに先立つ同年5月19日付けで『英国基金立文法学校の大要』は、筆者カーライルからシャーロット女王に献呈されたのである。カーライルの関心は、ブルーム同様、議会による公的な調査と改革を通して、チャリティ基金の濫用を是正することであった。王立図書館の司書補やロンドン古書協会事務局長の職にあったカーライルは、基金立文法学校に関する質問書を関係者に送付することによって情報を収集した。そして475校にも及ぶ、それまで未知のベールに包まれていた基金立文法学校の歴史や内実の解明に成功したのである。本書を著すにあたってカーライルは「正確さと実用性」に心掛けたと述べている。この成果は、その後1864年に設置された王立学校調査委員会(トーントン委員会)においても信頼のおける基礎データとして高く評価され、活用されている。
英国近代公教育の歴史は、初等教育がブルーム調査委員会から、中等教育がまさにこのカーライルの『英国基金立文法学校の大要』から始まるのである。今日では入手困難な本書が復刻されることで英国教育史の研究が一層実り豊かになることを期待したい。
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