●ロマン派文学とともに復興した妖精文学の19世紀文献復刻集
●「研究書」集成と「物語集」(第1,2集)の合計3セット(全15巻)
●リプリントなどで手に入りにくい文献を中心に選書
●児童文学、中世文学、シェイクスピア研究など英文学の様々な分野で利用できる文献集
英国文化のなかでの「妖精」の役割は、大変大きなものです。シェイクスピア、スペンサーを始め、民話、詩歌や小説、演劇、絵画などあらゆるところに彼らは顔をみせ、その種類もゲルマン、ケルト的なものからギリシャ・ローマ神話からのものまで多種多様、またそのイメージも長い歴史のなかで複雑に入り混じり変化しています。
英国文学における妖精は、アーサー王伝説の文献のなかにその原型があらわれます。中世からルネッサンスへと妖精たちは人々の想像力のなかに生き続け、エリザベス朝時代の文学、音楽表現を通してそのイメージは花開きます。その後17-18世紀の近代合理主義により一度姿を消しますが、18世紀末にはウォルター・スコットやロマン主義とともに妖精文学は復活します。ヴィクトリア朝時代になると、一般社会のなかにもそれは浸
透し、子供の理想的な教育のためにも妖精物語本を家庭に揃えることが流行しました。そのような大衆文化の中の妖精文学の広がりがある一方、英国文化の要素として、シェイクスピアを中心としたエリザベス朝文化からケルトや民間伝承までさかのぼり、妖精文学の起源や文学・心理学的分析をさぐる文学研究もこの時代に始まりました。このような流れの中から、幸せな子供たちの友である妖精と同時に、その対極にある残酷で異端や黒魔術的な存在としての妖精も浮かび上がってきました。このように、ロマン主義文学から始まり、ラファエル前派の芸術、そして、イェイツ、フォスター、キップリング、またトールキンの「指輪物語」、ルイスの「ナルニア国物語」から今日の「ハリー・ポター」へと、「妖精文学」は近現代を通じ英文学の一領域として豊かに成長しています。
今回刊行が始まるこのシリーズは、妖精学研究と大衆文化のなかの妖精物語の両面から様々な19世紀の文献を集め、ヴィクトリア朝文化・英国文学の重要なテーマとしての妖精研究の手助けになるよう企画されたものです。第一回配本では、19世紀初頭から末までの妖精研究文献6点を集めます。ロマン主義の影響からうまれた妖精研究が、時代とともに民俗学、比較人類学的手法を用いた理論へと推移してゆく19世紀ならではの展開も俯瞰できる大変興味深い構成になっています。
編者のロバート・ギルバートは19世紀神秘主義やオカルトの研究者で、A.E.
Waite, Magician of Many Parts (1987)、 The Oxford Book
of Ghost Stories (with M.A. Cox)(1986) など数多くの編著書があります。
■内容明細■
Vol. 1: Joseph
Ritson, Fairy Tales, now first collected: to which are
prefixed
Two Dissertations: On Pygmies; On Fairies (1831), 212pp.
Ritson (1752-1803)はスコットランドに生まれ、後に弁護士の資格を得てロンドンに移住。中世の歌謡や民話の収集家として著名で、A
Select Collection of English Songsや、 Robin Hood に関する詩歌集でBewickの挿画が美しい
Ancient English Metrical Romances 、12-16世紀の英詩書誌Bibliographia
Poetica 等の著作、そして Percy のReliques を激しく攻撃したことでも英文学史に名を残している。本書は、英国だけでなくヨーロッパ全体の文学における妖精のタイプとその行動の典型をあらわす物語や小歌のサンプル集と、著者の論文2点をまとめたもの。著者の生前に出版されることはなかったが、Walter
Scottの高い評価とともに1830年代に入り公刊された。このことからも、19世紀前半の妖精研究への急速な関心の高まりがわかる。
Vol. 2: James
Orchard Halliwell-Phillipps, Illustrations of the Fairy
Mythology of A Midsummer Night's Dream (Shakespeare Society,
1845), 319pp.
Halliwell-Phillips
は19世紀イギリスを代表するシェイクスピア学者。主著に全2巻のOutlines of the Life of
Shakespeareがある他、Shakespeare全集の復刻、古劇、古語に関する辞書などの編集に携わった。本書で著者は、妖精文学の形成と英国社会での認知におけるシェイクスピアの役割を詳細に考察すると同時に、表象文化としての妖精をヨーロッパ全体を含め論じている。
Vol. 3: John
Thackray Bunce, Fairy Tales, Their Origin and Meaning,
with Some Account of Dwellers in Fairyland (1878), 214pp.
著者はBirmingham
Post誌の編集長で、英国ラファエロ前派的作品を残した画家Kate Elizabeth Bunce の父。19世紀後半になり盛んになった民俗学的アプローチで妖精を研究した代表的著作。妖精文化の起源や特徴をアーリヤ文化、ゲルマン・北欧文化、ケルト文化等に分類し、系統的に分析している。
Vol. 4: Edwin
Sidney Hartland, The Science of Fairy Tales, An Inquiry
into Fairy Mythology (1891), 380pp.
英国の古き文化の収集と保存を目的に設立されたSociety
of Antiquaries の会員であった著者は、妖精物語や民話を収集したEnglish Fairy and
other Folk Tales (1893) 編者として知られる。本書はその編集と並行執筆された研究書。妖精神話の真髄を、妖精の超自然的行動タイプの分析とともに語っているが、それよりも"Fairy
Births and Human Midwives"などの章に展開されている、人間と妖精間の相互作用に関する深い考察は特筆される。
Vol. 5: David
MacRitchie, The Testimony of Tradition (1890), 216pp +
20 drawings,
David MacRitchie, Fians, Fairies and Picts (1893), 78pp
+ 21 plates'Ancient and Modern Britons'という著書もあるMacRitchieは、人類学的理論をもちい、人々の記憶に深く眠る失われた民族(例えば小人族)への記憶が妖精文学(例えば一寸法師)を産むと説いた。この考えそのものは19世紀初頭にWalter
Scottが広めたものに近く、それを約100年後に復活、展開させたものとも言えるが、彼の研究は、John BuchanのスリラーやArthur
Machenの神秘的作品など、同時代の小説家に少なからぬ影響を与え、19世紀末英国の妖精学を代表するものとなった。
■シリーズ続刊■
英国妖精文学:19世紀文献集成シリーズ
第2集:物語集第1期 全5巻
Victorian Sources of Fairy Tales: Pt.2 A Collection of
Stories (A)
編・序: Robert A. Gilbert
2003年1月刊行 本体セット価格:\98,000 ISBN:4-901481-33-9
第1集の研究書集成につづく第2集は、この時代に刊行され人気を博した物語集です。
チャールズ・ラムによる「美女と野獣」のように著名な文学者による児童書から、この時代の作家により再編集された物語集など、計7作がまとめられます。
■内容明細■
Volume 1
General Introduction by Robert A. Gilbert
Fairy Tales, or, The Court of Oberon: containing thirteen
choice pieces / by the celebrated Queen Mab, Mother Goose,
Mother Bunch, Master Puck, and other distinguished personages...
(1824) 180pp
Charles Lamb, Beauty and the Beast (1887), 42pp
Charles Lamb, Prince Dorus (1887), 31pp
シェイクスピア戯曲にも登場するマブ女王や妖精パックを主人公とする13の物語集とチャールズ・ラム版絵入「美女と野獣(アンドリュー・ラングの序文付)」と「プリンス・ドラス」を収録。
Volume 2
Anthony Hamilton, Fairy Tales and Romances (1849), 562pp
アントニー・ハミルトンによる18世紀妖精物語の選集。
Volume 3
Mrs D.M. Craik, The Fairy Book. The best popular fairy
stories selected and rendered anew (1863), 380pp
「ブラウニーの冒険」の作者ダイナ・マライア・クレイクによる子供向けの妖精物語集。31の昔話が彼女の手により書き直されている。
Volume 4
George MacDonald, Dealings with the Fairies (1867), 308pp
子供と大人両方向けのファンタジー作家として、19世紀を代表するジョージ・マクドナルドのオリジナル妖精物語集。作者はラスキンやルイス・キャロルとも親交、その作品はC.
S. ルイスの「ナルニア国物語」にも大きな影響を与えた。
Volume 5
E.H. Knatchbull-Hugessen [Lord Brabourne], Friends and
Foes from Fairyland (1886), 338pp
「チャーリーと妖精たち」の作者エドワード・H・ナッチブル=ヒューゲッセンによるオリジナル物語3作。当時大変人気のあった作品集。
■2004年近刊予定■
英国妖精文学:19世紀文献集成シリーズ
第3集:物語集第2期 全5巻
Victorian Sources of Fairy Tales: Pt.2 A Collection of
Stories (B)
編・序: Robert A. Gilbert
2004年予定 本体セット予価:\98,000 ISBN:4-901481-34-7
(物語集第2期ではクルックシャンクのFairy Libraryやナッチブル=ヒューゲッセンに
Monnshineなどを収録する予定です。詳細はお問い合わせください。)
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