●パブリックスクールを舞台としたヴィクトリア朝小説選集
●児童文学、19世紀英文学、文化史、教育史の原資料として幅広く利用可能
ジェントルマン階級の子弟の教育の場としてパブリックスクールは極めてイギリス的な歴史と伝統を持ち、現在でも英国文化を形成する重要な要素の一つとなっています。教育の近代化の進む19世紀にあって、これらの私立学校も貴族階級から主に上層中流階級へと門戸を開き、ここでの生活と教育、スポーツからヴィクトリア朝時代のジェントルマンの人格形成がなされてきたといえます。
パブリックスクールに関する研究は数多く発表されていますが、本復刻集成はパブリックスクールを舞台にした19世紀の小説集で、学園小説からヴィクトリア朝時代の寄宿生活や教育の実践を読み解くといった、今後の研究への新鮮なアプローチを可能にしてくれます。現在でも数多くの英国文学や、映画の題材となっているパブリックスクールは、英国の文学・文化、そして教育・児童学研究に避けることの出来ないテーマです。
どうぞこの小説集を広い分野での素材としてご活用ください。
■内容明細■
Vol.
1
Henry
Cadwallader Adams
Schoolboy Honour . A Tale of
Halminster College, Routledge, 1861,
363pp
パブリックスクールに入学した二人の少年の物語。死、道徳そして罪悪といった問題が語られる。舞台は著者の出身校ウィンチェスター・カレッジと考えられる。
Vol.
2
Frederic
William Farrar
St. Winifreds, or the World of
School, A & C Black, 1862, 536pp
英国学園小説を代表する作家ファラーの作品。ベストセラーになった彼の作品 'Eric, or Little by Little'
ほど一般には知られていないが、彼の息子で伝記の著者Reginald
Farrar はこの小説の方がより当時のパブリックスクールの現実を描写していると評価している。いじめの対象となっていた主人公が、崖崩れのなかから同級生を救いだし学校のヒーローとなってゆく姿が、キリスト教の道徳観とともに語られる。題材は著者が送ったキング・ウィリアムス・カレッジでの生活から得ている。
Vol.
3
Talbot
Baines Reed
The Fifth Form at St Dominics,
Religious Tract Society, 1887, 467pp
ヴィクトリア朝後期の少年の姿を描き出した、この分野の小説の最高傑作の一つ。
ヒューズ作の'Tom
Brown'とファラー作の'Eric'に代表される学園小説の2つの異なる伝統的手法を適度に融合させ、完成度の非常に高い文学作品となっている。学問のスポーツの名誉かで揺れ動く学生たちの姿が、教訓的に描き出されている。
Vol.
4
Arthur
Herman Gilkes
The Things That Hath Been,
Longmans Green, 1894, 329pp
自身パブリックスクールの校長職にありながら、そのスノビズムの内側からの批判者でもあった著者の教育観が色濃く出されている小説。パブリックスクールの新任教師が、その誠実で率直な振る舞いのにより学校内に敵を作り、最後は彼がキリスト教徒ではないという告発を受け学校を去ってゆく。この時代の教師の生活と教師と生徒の関係の内実が非常に細部にいたるまで具体的に描かれており、教育史の資料としても価値の高い作品。
Vol.
5
James Edward Cowell Welldon
Gerald Eversley's
Friendship, a Study in Real Life,
Smith Elder, 1896, 354pp
1885年から98年までハーロウ校の校長を勤めたウェルドンが著した唯一の小説作品。
ファラーの感傷的なスタイルと対照的に、力強い文体の用い、体の弱い主人公とハンサムでスポーツ万能な少年の間の友情を語る。この時代のハーロウ校の生活が極めて写実的に描かれている。
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