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分野:アイルランド研究、英文学、演劇史

アイルランド演劇:17−18世紀戯曲選集 全2巻
Irish Drama of the Seventeenth and Eighteenth Centuries
編集・解説: Christopher J. Wheatley, Catholic University of America & Kevin Donovan, Middle Tennessee State University

2003年4月刊行
本体セット価¥43,000
ISBN 4-901481-38-X

近年まで、19世紀以前に英語によるアイルランド文学は存在せず、また、英語によるアイルランド演劇が始まるのも19世紀後半になってからと一般的には考えられてきました。勿論、これ以前にもアイルランドで演劇は上演されていましたが、わずかの例外を除きそれらはゲール系の作者による創作でなく、またその多くがロンドンの芝居の焼き直しであったこともあり、これらをアイルランド演劇ととらえることは少なかったのです。しかしながら近年Andrew Carpenterによって18世紀アイルランドの英語詩選が編まれるなど、多様な側面から、19世紀以前のアイリッシュネスを再定義する研究が進んでいます。Andrew Fletcher 'Drama, Performance, and Polity in Pre-Cromwellian Ireland' (2000)、 John Greene 'Theatre in Belfast, 1736-1800 '(2000)、そして本書の編者Christopher J. Wheatleyによる 'Beneath Ierne's Banners: Irish Protestant Drama of the Restoration and Eighteenth-Century (1999)-ローズ賞受賞-など、数多くの研究が集中的に発表されています。

17世紀初頭アイルランドのノルマン系の住民や英国から移民した人々は自分達をアイルランド人とは考えませんでした。18世紀になるとアイルランド系と英国カトリック系住民の間の区別ははっきりしたものではなくなり、英国系の人々も自分達をアイルランド人とみなすようになってゆきます。今回のアンソロジーはこの時代に発表され、この変移を作品のなかに反映している演劇に焦点をあてた戯曲選集です。同分野の文学選集では唯一先行するSeamus Deane編 Field Day Anthology ofIrish Literature や、その他現代版で入手できるCharles Macklin作品などは避け、現代の読者が手にいれることの極めて困難な戯曲を集成します。全て版を新たに組み直し、編者による詳説と作家解説も収録しています。

アイルランド文学、演劇だけでなく文化、歴史研究にもあらたな視点をあたえてくれる、意義深い文献です。

●アイルランド17-18世紀戯曲の初めての選集
●この時代のアイルランド演劇の精髄
●演劇、文学研究だけでなくアイルランド人のアイデンティティー変革期の文献として、文化・歴史研究にも重要
●全テキスト新版組みで、編者の詳細な解説、作者紹介も収録

■掲載戯曲■
Henry Burnell: Landgartha (1639)
Richard Head: Hic et Ubique, or, the Humours of Dublin (1663):
Charles Shadwell: Irish Hospitality (1718)
Charles Shadwell: Rotherick O'Connor (1719)
William Philips: Hibernia Freed (1722):
Robert Ashton: The Battle of Aughrim (1728)
Henry Brooke: Jack the Giant Queller (1649)
Thomas Sheridan: The Brave Irishman (1743, revised 1755)
Seamus Deane編 Field Day Anthology ofIrish Literatureに収録されていますが、今回は作者が最後に手を加えた手稿の初の公刊。
Gorges Edmond Howard: The Siege of Tamor (1773)
Francis Dobbs: The Irish Chief, or Patriot King (1774)
Mary O'Brien: The Fallen Patriot (1790)
John O'Keeffe: The Poor Soldier(1782)
John O'Keeffe: The Wicklow Mountains(1798)

◆本書を推薦する。
早稲田大学教授 三神弘子
 Irish Drama of the Seventeenth and Eighteenth Centuriesは、13編の劇作品を収録したアンソロジーで、1641年から1798年にかけ、(何らかの形で)アイルランドを題材にし、英語で書かれた演劇作品を取り扱っている。このジャンルの演劇に関しては、G. C. DugganのThe Stage Irishman (1937), W. S. ClarkのThe Early Irish Stage (1955)などの先駆的研究に加え、近年、研究書が相次いで出版されている一方、具体的な作品を手にとって読もうとすると、限られた例外を除いて、ダブリンのトリニティカレッジ図書館や大英図書館に足を運ぶしかなかったのである。このアンソロジーでは、従来入手しにくかった作品を、現代表記によって読みやすく編集し、それぞれの作品に、二人の編者による詳細な注、作者紹介、時代背景などが付けられている。
 13編の作品を年代順に並べたとき、その起点と終点になっている1641年と1798年は、アイルランド史にとって特別な意味をもつ年である。1641年は、多くのプロテスタントが殺され迫害を受けたと言われるカトリックの叛乱が起きた年で、この叛乱に報復するためクロムウェルのアイルランド侵攻は苛烈なものとなった。また、その翌年の1642年には、ピューリタンによって劇場が封鎖される。また1798年は、ユナイテッド・アイリッシュマンの叛乱が起こった年で、その2年後にアイルランドは英国に併合されるのである。
  時代と連動するかのように、これらの作品を執筆した作者の出自も多岐にわたっている。Old Englishと呼ばれるAnglo-Norman(Henry Burnell)、1641年のカトリックの叛乱で父を殺されたアイルランド生まれのプロテスタント(Richard Head)、アイルランド生まれのカトリック(John O'Keeffe)、イングランドからの新しい移住者 (Charles Shadwell)、保守的なAnglo-Irish(George Edmond Howard)、革新的、愛国的なAnglo-Irish(Francic Dobbs, Mary O'Brien)といった具合に。
  このように社会が大きく動いた時代に、ダブリンの劇場で何が起こっていたのか考えることは興味深い。そして、13編の劇作品は、その時代の息吹を肌で感じることができる手がかりを与えてくれる。それぞれ、当時の社会をテーマにしていようと、過去をテーマにしていようと、作品が執筆された時代を映し出す鏡であることには間違いがないからである。Dion Boucicaultが19世紀に発表したアイルランド劇3作を、1964年にDavid KrauseがDolmen出版から、編集出版したことで、忘れ去られていたBoucicaultのアイルランド劇が、今日の上演レパートリーとして復活したように、このアンソロジーに収録された17,18世紀のアイルランド劇に新しい光が当てられることによって、アイルランド演劇研究のみならず、アイルランドの文化研究、歴史研究に大いに寄与することになると思われる。