19世紀の大飢饉により、アイルランドはその国民の約四分の一が海外に移民したと言われますが、その大多数はアメリカ大陸に向かいました。本書はその一人オハンロン(O'Hanlon,
John 1821-1905)による、アイルランド人の視点から記述された大変貴重なアメリカ史書です。
著者はCarlow の神学校で教育を受けた後、家族とともに1842年にケベックに渡ります。その後ミズーリ州に移住し、同地のアイルランド移民社会の宣教師として活動しますが、健康上に理由で1853年にアイルランドに帰国します。オハンロンは、宗教家としてだけでなくアイルランドに関する研究者としても広く活動し、なかでも第9巻まで自身が執筆した大著「アイルランド聖人伝」The
Lives of the Irish Saints(1875)により今日もその名を残しています。その他にも、「アイルランド移民へのガイド」The
Irish Emigrant's Guide to the United States(1851)や「アイルランド神話集」Irish
Local Legends (1896)-小社刊「アイルランド民間伝承と神話:19世紀文献集成」に収録-など数多くの編著書があります。
今回復刻される「アメリカ史」はオハンロンが晩年にダブリンで発表した大著です。第1章Early Irish Traditions
regardign Hy-Bresail or a Great Western Ireland から始まり19世紀末までのアメリカ史が、その通史と同時にアイルランド民族との関係が本文ならびに詳細な脚注のなかで記述されています。本書執筆の背景にはアイルランド文芸復興運動とともに高まった、アイルランド文化や民族への誇りがあったことが想像され、新大陸への希望や移民達の直面した過酷な現実など19世紀アイルランド人の複雑な問題が読み取れます。
アメリカ史、アイルランド研究にかかわる幅広い資料としてお役立てください。
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