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分野:ヴィクトリア朝文化研究、19世紀英文学・英国社会史、都市史・観光学

図説『ヴィクトリア期ロンドン大百科』全3巻 (復刻版)

Pictorial Handbook of London
comprising its Antiquities, Arichitecture, Arts, Manufacture, Trade, Social,
Literary and Scientific Institutions, Exhibitions, and Galleries of Art,
together with some accounts of the Principal Suburbs and Most Attractive
Localities

2004年9月刊行
底本:1854年刊初版
全910頁 (図版205点、折込地図1点)
本体価格:\78,000
ISBN: 4-901481-84-3

●ロンドン万博直後に、観光客や一般向けに編集されたロンドン百科。
●ロンドンおよびその近郊に関するヴィクトリア期の最新情報をアルファベット順に収録。
●900頁を超える大著を、200点を超える図版、地図とともに復刻。使いやすい3巻に分冊。
●病院、精神病院、監獄、公衆浴場、公園、水族館、学校、駅、教会などの施設の建築図面、ロンドンの天気や物価、保険料、税金などの統計等々、ヴィクトリア期の社会、文化研究そしてディケンズなど英文学研究のためのデータ集、視覚資料として最適。
●国内図書館所蔵は極めて稀。

主な項目:
Almshouses
Architecture of London, ancient and modern
Architects: the great men, Jones, Wren, and Chambers
Arts, Manufactures, and Trades
Assurances
Asylums
Banks- Bank of England
Botanical Features and Landscapes of the Neighbourhood of London
Breweries
Canals
Cathedrals and Churches
Cemeteries
Charitable Institutions
Climate of London
Club-Houses
Colleges
Corporations
Customs Duties
Docks, Commercial and Royal
East India House and Institution
Educations
Electric Telegraphs
Engineering Workshops
Exchanges: Royal Exchange, Coal Exchanges, Corn Exchange
Galleries of Art
Gardens and Conservatories
Geology
Halls
Horticulture
Hospitals
Inns of Court
Institutions
Learned Society
Legislation and Government
Libraries
Lunatic Asylums
Markets
Medieval Antiquities and Tudor Art
Mercantile Marine
Military Appointments
Mint and Monetary Systems
Model Lodgings
Municipal Law
Music
Museums
Natural History
Observatories
Palaces
Panoramas
Parks
Patents Offices
Physical Geography of the Basin of the Thames
Pleasure Grounds
Police
Port of London
Postal Arrangements
Prisons
Public Schools
Public and Private Buildings
Railway Station
Sewers
Spirit of the Public Journals
Squares
Statuary
Steam Navigation
Thames Tunnel
Theatres
Trips in search of Refinement and Taste
Water Supply

推薦文
東京都立大学名誉教授 小池滋

 このロンドン事典は1854年に刊行されたものであった。この事実にまず注目していただきたい。それから、いまこの本を手にとって開こうとしていらっしゃる皆さんが、21世紀の日本に生きているのではなくて、1854年のイギリスに生きていて、初めてこの本を手にしているのだと、というように想像していただきたい。
 そうすれば、この本がどのような意図で企画・編集されたのか、どのような人に読んで貰おうと刊行されたかが、おのずとわかっていただけるだろう。タイム・マシンを150年ほど逆転してみて下さい。
 1851年にロンドンのハイド・パークで大博覧会―今日でいう「万国博」の第1号が開かれて大成功を収めた。英国の各地はもとより、国外からも多くのお客がロンドンに押しかけ、これをきっかけとしてpopular tourism(大衆観光)というものが一般に認知され確立したのであった。
 本書は明らかにそうした時代の気運が生んだ成果であった。ブームに乗って(仕事のためではなく)観光のためにロンドンにやって来る多くの内外の(学者やインテリではなく)一般人の便に供するためのハンドブックである。だから、高邁な哲学ではなく、すぐに役立つ実用知識だけを、アルファベット順の項目にして並べるだけでよかった。
 だが、読んでみると、こうした素っ気ない即物的な陳列が、後世のわたしたちには興味深い、ときにはユーモラスな感慨をもたらしてくれる。例えば "Bank of England" のすぐ次に "Baths and Washhouses" とあるのは、おもしろいではないか。Bathsといっても、いま日本で流行の観光温泉ではない。"for the Industrious Classes" と説明がついていることでもわかるように、公衆浴場・洗濯場のことで、当時は一般勤労者のほとんどは、自宅(間借りが多かった)に浴場や洗濯場など持てなかったから、これは絶対必要な公共施設だった。男と女に分かれているのは当然だが、それぞれに「一等」と「二等」があるのが、いかにもイギリスらしい。挿入されている詳しい図面によって内部がよくわかる。当時の小説やルポルタージュや現代の研究文献を読んだだけではしることのできない貴重な知識をわたしたちに与えてくれる。
 "Post Office" のすぐ次が "Prison" で、それが"(Debtor's)" と "(Criminal)" に分かれているのも、当時の社会の実態をよく教えてくれる。個人間の借金を返せないと訴えられて債務者監獄に入れられたことは、Dickensの小説を読んだことのある人なら知っている。この監獄は1870年代になくなったから、きわどいところでこの本が扱ってくれたわけだ。
 このように、研究のためばかりではく、楽しみを求めて本書を気の向くままに開いて読む人も、大きな満足を得ることができる。