ヴィクトリア朝時代の青春小説の復刻集成の第2弾です。前作パブリック・スクールを舞台にした小説集に続き、今回はオックスフォード(3作)とケンブリッジ(2作)のカレッジでの生活を扱った小説計5作品を収録します。この中にはケンブリッジに1871年に創設された女子カレッジNewnhamでの女子大生の生活を描いた大変珍しい小説も含まれます。これらの作品は当時の一般読者向けにフィクションとして発表されたものですが、ここに登場する大学生や学園生活を読み解くことにより、当時の様々な史料や研究書が提供してくれるデータとは別の角度からの、より生き生きした若者の生活や教育環境を知ることができます。英国19世紀の教育史、文化史や小説史の一次資料としてどうぞお役立てください。
■収録明細■
Vol.
1: John Gibson Lockhart
Reginald Dalton, A Story of English University Life
Edinburgh: Blackwood (1823), 505pp.
Quaterly Reivew誌の編者でロバート・バーンズやウォルター・スコットの伝記著者としても英文学研究者にはおなじみのLockhart
の作品。Balliol College出身の著者のオックスフォードの学生を主人公にした学生小説。
Vol.
2: Thomas Hughes
Tom Brown at Oxford, London: Nicholson (1861),
382pp.
ヴィクトリア時代を代表する学園小説で大ベスト・セラー Tom Brown's Schooldays (1857)の続編として発表された。主人公トム・ブラウンが成長しオックスフォードに入学した後の話。
Vol.
3: Martin Legrand (pseud.)
The Cambridge Freshman, or, Memoirs of Mr. Golightly,
with numerous illustrations by Phiz
London: Tinsley Brothers (1871), iv + 395pp.
『ルークラフト氏の事件』(The Case of Mr. Lucraft) など Walter Besantとの共作で知られるヴィクトリア時代の人気大衆小説家
James Rice が、偽名で発表したケンブリッジの新入生を主人公にした小説。著者が9年間を過ごしたケンブリッジ
Queen's College が舞台。多数のイラストも当時の大学生活の視覚資料になる。
Vol.
4: Richard St. John Tyrwhitt
Hugh Heron, Ch Ch, an Oxford Novel, London:
Strahan & Co (1880), xii + 474pp.
'Handbook of Pictorial Art' などの著書で名を残す芸術評論家の作品。オックスフォードChrist
Church College の保守党員だった著者がウォルター・ペイターの同性愛的美学に対抗し発表した小説。著者の保守志向はThomas
Hughes やCharles Kingsleyに代表される男性的な力強さと異なり、ラスキン的なより精神性に根ざしたものである。この点で第2巻Tom
Brown at Oxford との比較も興味深い。
Vol.
5: Alice Stronach
A Newnham Friendship, London: Blackie, (c1900),
288pp.
ケンブリッジの女子カレッジを舞台にした小説。著者は小学校教師で、少女教育雑誌などに教育問題の記事を執筆したり、ヨーロッパの小説の英訳などを残しているが、その他は多くは知られていない。
■関連書ご案内■
パブリックスクール・ライフ
−19世紀英国学園小説復刻集− 全5巻
Victorian Novels of Public School Life
編集・序文:Christopher Stray, University of Wales, Swansea
2002年12月刊行
本体セット価¥98,000 c2049pp ISBN 4-901481-37-1
●パブリックスクールを舞台としたヴィクトリア朝小説選集
●児童文学、19世紀英文学、文化史、教育史の原資料として幅広く利用可能
ジェントルマン階級の子弟の教育の場としてパブリックスクールは極めてイギリス的な歴史と伝統を持ち、現在でも英国文化を形成する重要な要素の一つとなっています。教育の近代化の進む19世紀にあって、これらの私立学校も貴族階級から主に上層中流階級へと門戸を開き、ここでの生活と教育、スポーツからヴィクトリア朝時代のジェントルマンの人格形成がなされてきたといえます。
パブリックスクールに関する研究は数多く発表されていますが、本復刻集成はパブリックスクールを舞台にした19世紀の小説集で、学園小説からヴィクトリア朝時代の寄宿生活や教育の実践を読み解くといった、今後の研究への新鮮なアプローチを可能にしてくれます。現在でも数多くの英国文学や、映画の題材となっているパブリックスクールは、英国の文学・文化、そして教育・児童学研究に避けることの出来ないテーマです。
■内容明細■
Vol.
1
Henry Cadwallader Adams
Schoolboy Honour . A Tale of Halminster College,
Routledge, 1861, 363pp
パブリックスクールに入学した二人の少年の物語。死、道徳そして罪悪といった問題が語られる。舞台は著者の出身校ウィンチェスター・カレッジと考えられる。
Vol.
2
Frederic William Farrar
St. Winifreds, or the World of School, A
& C Black, 1862, 536pp
英国学園小説を代表する作家ファラーの作品。ベストセラーになった彼の作品
'Eric, or Little by Little' ほど一般には知られていないが、彼の息子で伝記の著者Reginald
Farrar はこの小説の方がより当時のパブリックスクールの現実を描写していると評価している。いじめの対象となっていた主人公が、崖崩れのなかから同級生を救いだし学校のヒーローとなってゆく姿が、キリスト教の道徳観とともに語られる。題材は著者が送ったキング・ウィリアムス・カレッジでの生活から得ている。
Vol.
3
Talbot Baines Reed
The Fifth Form at St Dominics, Religious
Tract Society, 1887, 467pp
ヴィクトリア朝後期の少年の姿を描き出した、この分野の小説の最高傑作の一つ。
ヒューズ作の'Tom Brown'とファラー作の'Eric'に代表される学園小説の2つの異なる伝統的手法を適度に融合させ、完成度の非常に高い文学作品となっている。学問のスポーツの名誉かで揺れ動く学生たちの姿が、教訓的に描き出されている。
Vol.
4
Arthur Herman Gilkes
The Things That Hath Been, Longmans Green,
1894, 329pp
自身パブリックスクールの校長職にありながら、そのスノビズムの内側からの批判者でもあった著者の教育観が色濃く出されている小説。パブリックスクールの新任教師が、その誠実で率直な振る舞いのにより学校内に敵を作り、最後は彼がキリスト教徒ではないという告発を受け学校を去ってゆく。この時代の教師の生活と教師と生徒の関係の内実が非常に細部にいたるまで具体的に描かれており、教育史の資料としても価値の高い作品。
Vol.
5
James Edward Cowell Welldon
Gerald Eversley's Friendship, a Study in Real Life,
Smith Elder, 1896, 354pp
1885年から98年までハーロウ校の校長を勤めたウェルドンが著した唯一の小説作品。
ファラーの感傷的なスタイルと対照的に、力強い文体の用い、体の弱い主人公とハンサムでスポーツ万能な少年の間の友情を語る。この時代のハーロウ校の生活が極めて写実的に描かれている。
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