●近代ツーリズムの始まりとされる「グランド・ツアー」に関する同時代の資料
●18世紀英国旅行者必携の書とされたガイドの初の復刻
●観光学だけでなく、18世紀英国研究の資料としても貴重
●新序文入り
18世紀に入るまで英国での観光旅行は国内の旅にほとんど限定されており、ごく僅かの貴族達を除けば、一般に国外への旅は大きな危険を伴うものと考えられていました。この傾向は18世紀になると急激な変化を見せ、上流の家庭で子弟のエリート教育の一環として、ヨーロッパ大陸への旅行が重んじられ始められます。グランド・ツアーと称されたこの遊学の旅は、文化先進国であったイタリアやフランスを主な目的地としました。
この旅行には家庭教師や時には牧師までも同行し、通常1-2年、時には数年間にも及ぶもので、この経験は英国の若者が真のジェントルマンと見做される最低条件と考えられるようになりました。
本書はこの時代を代表するトラベル・ライター、トマス・ニュージェントによる最も成功した旅行ガイドブックで、グランド・ツアーに旅立つ当時の若者達には必携の書とされました。グランド・ツアーに旅立つ彼らを待ち受けるものは、必ずしも洗練された文化だけでなく、旅先での犯罪や様々なトラブルもつきもののはずで、このようなガイドは異文化への理解を深める上でも不可欠な情報源だったのでしょう。グランド・ツアーは19世紀半ばにはより大衆化したパッケージ・ツアーに変化し、トマス・クックやベドカーらの旅行ガイドがこのニュージェントのガイドと同じような役割を果たすことにな
ります。
このようにグランド・ツアーは近代ツーリズムの始まりと考えられており、今日の観光学やその歴史研究の最も重要なテーマの一つとなっています。しかしその実態を知る上での同時代の史・資料は極めて少なく、本書もいままで一度も復刻されたことのないものです。また、このグランド・ツアーの流行の背景には18世紀英国知識階級のローマ時代への郷愁や、フランスやイタリア文化への劣等感があり、そのような社会史や文化研究にも貴重な情報が本書から得られます。
近代ツーリズム史研究の一次資料としてだけでなく、ヨーロッパ18世紀研究の幅広い情報源としてどうぞ本書をお役立てください。
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