◇18世紀末から19世紀のロマン主義期の英国で刊行された女性の旅行記で、現在入手の困難な貴重文献5作を全点完全復刻し集成するものです。
◇大英帝国拡大期に流行した旅行記や旅先からの書簡などの記録は、今日「コロニアリズム」「ポスト・コロニアリズム」に関する文化研究の史・資料としても広く注目を集めています。
◇なかでも異国へと旅した女性たちの言説は、「グランド・ツアー」や「ピクチャレスク・ツアー」が広く実践されていた18世紀の英国貴族・市民階級の男性社会と一線を画し、社会の「主流」ではなかった女性達の異文化・外部社会へのまなざしであり、今日関心をあつめる「階級、人種、ジェンダー」に関する複合的研究のための一次文献としても多様に活用いただけます。
内容:
第1−2巻
●ヘレン・マライア・ウィリアムズ『フランス便り』全2巻
Helen Maria Williams
Letters from France; containing a great variety of information concerning
the most important events that have occurred in that country in the years
1790, 1791, 1792, and 1793 ... To which are annexed, the correspondence of
Dumourier with Pache, etc.
2 vols. J. Chambers: Dublin, 1794
c. 550pp in total
ロマン主義時代の女性詩人・小説家である作者のフランス革命の記録。革命を熱心に擁護し、恐怖政治時代には投獄もされたウィリムズは、その後もパリに留まり英国へこのレポートを送り続けた。8回に分けて刊行された本書は当時の英国で大きな反響を呼んだ。(2巻に合本された1794年の版を収録。)本書に関しては、エリザベス・ボールズの最近の研究書(『美学とジェンダー−女性の旅行記と美の言説』(長野順子訳、ありな書房)が「ピクチャレスクの政治化」という視点から先鋭的に解読している。
第3巻
●アンナ・マリア・ファルコンブリッジ『シエラレオネ川への2度の旅』
A.M. Falconbridge
Narrative of two voyages to the River Sierra Leone, during the years
1791-2-3
2nd edition, Higham: London, 1802
279pp
著者は、反奴隷貿易の活動家として知られ後にシエラレオネの英総督にもなったアレクサンダー・ファルコンブリッジの妻。夫とともに滞在した植民地での旅の記録。英国女性の西アフリカ旅行記の嚆矢。
●メアリー・シェリー『フランス、スイス、オランダでの6週間の旅』
Mary Wollstonecraft Shelley, with a preface by Percy Bysshe Shelley
History of a six weeks' tour through a part of France, Switzerland, Germany,
and Holland: with letters [by Percy Bysshe Shelley] descriptive of a sail
round the Lake of Geneva, and of the Glaciers of Chamouni. (Mont Blanc.
Lines written in the Vale of Chamouni [by Percy Bysshe Shelley].) 1817,
pp.183
『フランケンシュタイン』の著者として著名なメアリー・シェリーが、1814年にパーシー・シェリーとヨーロッパに駆け落ちした際の各地での旅の記録。母メアリー・ウルストンクラフトの著書Letters Written during a Short
Residence in Sweden, Norway, and Denmark (1796)をモデルにしたと言われる。
第4巻
●イライザ・フェイ『インドからの手紙』
Mrs. Eliza Fay
Original Letters from India; containing a narrative of a journey through
Egypt, and the author's imprisonment at Calicut by Hyder Ally. To which is
added an abstract of three subsequent voyages to India
Calcutta, 1821
404pp
E. M. フォスターが"A Passage to India"執筆の参考とし、後にフォスター自身が編集、出版したことで知られる書簡集のインドで刊行されたオリジナル版。18世紀末には、英国から女性が新たな人生を求め植民地インドへと旅を始め、彼女たちの多くが書簡形式で植民地の記録を残している。裁縫婦や教師などの職を経験したフェイも1779年から1816年の間、4回にわたりインドへと旅し、この人間性にあふれる描写を残した。フォスターは'a work of art'と本書を絶賛した。
第5巻
●ジェミーマ・キンダスリー『テネリフェ島、ブラジル、喜望峰、東インド諸島からの手紙』
Jemima Kindersley
Letters from the Island of Tenerife, Brazil, Cape of Good Hope and the East
Indies
London, 1777
301pp
夫とともに各地を旅し、記録を残した著者の中南米での旅行記。奴隷貿易に関する彼女の描写は英国内で衝撃を与えたとされる。
第6−8巻
●シドニー・オウェンソン[モーガン夫人]『イタリア』全3巻
Sydney Owenson, Lady Morgan
Italy
London: Henry Colburn & Co., 1821c. 1500pp in total
19世紀前半に人気を博したアイルランド女性小説家のイタリア旅行記。ラディカルな政治思想を持っていた著者の本書(およびその前作"France")は保守的な批評家や政府からは激しく攻撃されたが、一方ロマン派文学者達は彼女を熱く支持し、なかでもバイロンはアイルランドの詩人Thomas Mooreへの手紙のなかで、"Her work is fearless and excellent on the
subject of Italy; pray tell her so. I know the country. I wish she had
fallen in with me; I could have told her a thing or two that would have
confirmed her position."と本書を称している。
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