「美術史」という学問が存在しなかった日本で、政府は1900年パリ万博に際し初めて自国の美術史を発表し西洋諸国の肩を並べようと試みました。帝国博物館は、当初岡倉天心を中心に総力を挙げこの日本美術史の編集事業は開始しましたが、様々な事情で作業は進まず岡倉は編纂員の任から罷免されます。その後紆余曲折を経て、最終的にはパリ万博事務官長・林忠正の手により、パリ博に間に合わせるべくこのフランス語版『日本美術史』が1900年編纂されます。翌年、この'Histoire'の原稿となった日本語テキストをもとに『稿本日本帝國美術略史』が日本国内向けに出版され、その後最も権威ある日本美術書としてながく影響力を保ったことはよく知られています。
日本語版『稿本日本帝國美術略史』は大正期から何回か復刻されていますが(最新版・ゆまに書房刊2003年)、このフランス語原書版はパリでの初版以降一度も復刊されることはありませんでした。フランスにおけるジャポニスム研究用の一次文献としてだけでなく、両国後版の対象により、それぞれのテクストや目次構成の違い、そして西洋美術用語がどのように本語への導入されたのかなど様々な比較文化研究が可能になってきます。今後の日本近代美術史と海外での日本美術の受容の研究にどうぞ広くご活用ください。
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