ジャポニスムの系譜
初期英語文献集成
各巻解説


ジャポニスム・シリーズ
発刊に寄せて


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ジャポニスムの系譜
第1回配本 初期英語文献集成 全6巻
Western sources of Japanese Art and Japonisme
Part 1: Early English Writings
監修・序文:日本女子大学教授 馬渕明子
 

 

2005年1月増刷
品切れ
ISBN: 4-931444-23-7

ジャポニスムの系譜
初期英語文献集成 各巻明細及び解説

James Jackson JARVES
A Glimps at the Art of Japan
New York, 1876
ジャーヴスは『アート・ジャーナル』誌に寄稿していたフィレンツェ在住のアメリカ人批評家で、来日経験はなかったが、『北斎漫画』などを高く評価し、日本人は自然に忠実である点、諧謔に富んだ点を強調し、アメリカ人の指針とするよう説いている。 

Rutherford ALCOCK
Art and Art Industries in Japan
London, 1878
初代駐日イギリス公使として早くから日本美術コレクションを収集し、1862年のロンドン万国博覧会にそれらを送った。帰国してからは日本美術の特質について語るこの書物を著した。それらが工芸品へどのように応用されているかなどの分析を行っている。

Christopher DRESSER
Japan: Its Architecture, Art, and Art Manufactures
London, 1882
西洋の芸術家をしては最も早く日本を訪れた(1876-77年)イギリス人デザイナー兼建築家であり、精緻な建築に関する記述や初めて大量に紹介した光琳派のデザインとその応用論は貴重である。

Marcus B. HUISH
Japan and Its Art
London 1889
『アート・ジャーナル』誌の編集長で、日本美術のコレクターであったヒュイシュは、歴史、自然、生活、風習などと芸術の関係を考察し、民衆の生活に即した情報を詳しく論じた。

William ANDERSON
Japanese Wood Engravings: Their History, Technique, and Caracteristics
London 1895
1886年に『日本の絵画芸術』を出版したアンダースンは、この本で日本の版画の起源と歴史に触れ、それを中国、朝鮮の関係で論じた。また西欧で人気を誇った北斎の時代が、浮世絵の歴史の中では衰退期にあたるとしている。

Catalogue of Prints and Books Illustrating
the History of Engraving in Japan, Exhibited in 1888
London, 1888
アンダースン蒐集品を中心に、1888年ロンドンで開催された日本の木版画、書籍展のカタログ。アンダースンが序文を寄せている。

John LAFARGE
An Artist's Letters from Japan
New York / London, 1897
1886年に来日したアメリカ人ラファージの書簡形式の旅行記で、自然、風俗の描写のあいまに、西洋美術との比較論をはさみこんでいる。彼はすでに1870年に日本美術論を著し、この書でも日本美術に対する深い洞察を見せている。
各巻解説: 馬渕明子


ジャポニスム・シリーズ発刊に寄せて
日本女子大学教授 馬渕明子

  このたび待望の、幕末明治期に日本について書かれた著書の復刻集成が刊行される運びとなった。まことに喜ばしいことである。欧米人の手になる日本に関する書物や論は、とりわけ高度成長期に、日本の戦後の驚異的な復興と経済発展の原因を探ろうという目的で多く書かれ、日本が西洋の論理や構造によっては理解できない文化圏であることを確認する論調が多かったように思う。
  しかしこれと同じほどの強い興味のまなざしで日本が見つめられた時期がかつてあったことを、多くの人々は忘れていた。日本が二百五十年にもわたる鎖国を解いた幕末明治期がそれである。帝国主義的進出の意図をもった欧米諸国は、中国大陸を経て日本列島にまで手を伸ばそうとしていた。徳川幕府が開国を決意せざるをえなかったのは、このような国際情勢が背景にあったからだった。
  日本にやってきた限られて特権的な人々は、自分の見聞きした神秘の国日本について書物を著し、多くの読者がこれを喜んで享受した。日本に対する好意的な見方は、アヘン戦争で敗北し英国の勢力下に入った中国に対する失望と蔑視に反比例している。日本は考えられていたより社会秩序が整い、都市は衛生的で、人々は善良で、自然は美しい、といった内容がおおかたである。中でも芸術美術に関する言及は好まれ、これを賛美する傾向が強かった。彼らの中には美術の専門家は少なかったが、ほとんどが幼い頃から美術に親しんだ上層教育階級で、彼らの多くが自ら日本美術コレクションを収集し、それらを故国に持ち帰った。
  日本の美術品が西欧世界に大量に輸出され、その結果としてジャポニスム(日本美術の西欧への影響)が誕生するには、このような書物による情報が果たした役割を軽視することはできない。そこには彼らが見た美術の特色、すなわち自然の風物を愛する趣味、色彩の鮮やかな美しさ、写実的はものよりも装飾性を重視する点、構図における非対称や俯瞰する視点、即興的な筆づかいや制作の偶然性を取りこむなどが発見され記されている。読者たちはそこにヨーロッパのアカデミーを中心に尊重されてきた価値を否定するような内容を読み取った。日本の美術に見られるこのような特色をどのように自分たちの芸術に取りこみ、消化して行くかといった問題意識の成果がすなわちジャポニスムである。
  百年以上前に書かれたこれらの書物に目を通すと、たしかに荒唐無稽な紹介のしかたに苦笑させられるこのもあるのだが、今日までも語りつづけられている にであうことも少なくない。それらがいつ、どのように誕生し、継承され、変化して行ったのかは、今日では重要な研究課題として浮上してきている。そのような研究はオリジナルのテキストに当たって調べるしかないのだが、実際に百年以上前の日本論はさまざまな意味で大変面白い。早くから日本の特質をみごとに言い当てていると思われるものや、誤解にい満ちたものなのに、次々と無批判に引用され孫引きされているのも、それがいつのまにか日本人の側でも常識のようにまかり通っているものなどに出会うことができる。
  それらを今日の目で読み直すことは、日本が西欧世界にとってとのように見られたか、彼らに何を投げかけたか、またそれらの眼差しに対して日本がどのように振る舞ったのか、といった多くの問題を解く鍵を提供するであろう。
  今日ではこれらのオリジナル文献はきわめて入手困難であるが、復刻版では簡単の読むことができれば、今後の成果は大であろう。その意味でこのシリーズもさらなる続編が期待される。