編集にあたって 真下裕之
東洋学の発展において、英国・アイルランド王立アジア協会 The Royal Asiatic Society
of Great Britain and Ireland (1823年設立)の果たした大きな役割についてはもはや贅言を要すまい。同協会の学術出版物としては、今日、第三シリーズを迎えた
Journal of the Royal Asiatic Society of Great Britain
and Ireland があまりにも有名である。さらに同協会は、Oriental Translation Fund
シリーズ(1829年開始)をはじめとする単行書のシリーズによって、多くのすぐれた研究を世に送ってきた。これらのシリーズの主な内容は、中国・インド・西アジアなど東洋諸地域の古典の翻訳である。翻訳にあたった研究者の国籍は、英国にとどまらず、独仏にも及び、それぞれの時代の東洋学の巨星が名を連ねている。したがってこれらのシリーズは、英国のみならず全欧州の東洋学の軌跡を映し出しているとも言えるだろう。そしてその中には、時を経てなお、それに代わる新たな翻訳がいまだ現れず、学問的価値を失わぬものが少なくない。また、ごく一部ではあるが、翻訳とともに原典テキストを併載し、一次史料研究としてさらに高い価値を備えたものもある。たしかに、その後の研究により、厳しい批判にさらされたり、原著の位置付けさえ変わったりしたものも少なくない。とはいえ、批判の論点の確認、研究史の回顧のためには、それらもなお参照の余地があろう。いずれにせよ、これらシリーズの出版物には、長らく復刊されずに、稀覯本と化したものが少なくないのである。
本叢書は、こうした稀覯書のうちから、イスラーム研究にかかわるものを選択、復刊するものである。四期にわたる本叢書では、Oriental
Translation Fund シリーズのやり方にならい、1. Theology, Ethics, and
Metaphysics; 2. History, Geography, and Travels; 3. Belles-Lettres
の分類を設けた。さらに、英国のインド統治を反映して、特に2の分類にはインド・イスラームにかかわる著作が多いので、これらについては別に分類を立てて、2-a.
History, Geography, and Travels (India) として、全四分類とした。
今期復刊の 1. Theology, Ethics, and Metaphysics は、数学、倫理学、暦学、哲学、イスラーム神秘主義、ハディース学などの古典の翻訳からなる。翻訳者には、ドイツのイスラーム学の巨星
C.E. Sachau (1945-1930), イスラーム神秘主義研究の泰斗 R.A. Nicholson
(1868-1945) などの大家も名を連ねる。また、全八点のうち四点が、翻訳とともに原典テキストを備えている点は特筆される。長らく入手の困難であったこれらの著作の参照が容易になることは、研究者に裨益するところが大きいであろう。
Royal
Asiatic Society: Classics of Islam
Series 1: Theology, Ethics, and Metaphysics. (8 works,
in 5 vols. 1995pp)
Edited by Hiroyuki Mashita, Institute for Research in
Humanities, Kyoto University
Preface by Prof. Anthony Stockwell, Royal Holloway College,
University of London
Introduction by Prof. Clifford Edmund Bosworth, University
of Manchester
<各巻明細>
Vol.1【フワーリズミー『ムフタサル・ヒサーブ・アッジャブル』:代数学 (Algebra)】
Frederic Rosen 1831 : The Algebra of Mohammed ben Musa,
London. 1 vol. 300pp (OTF19)
Vol.2【ムハンマド・ダワーニー『アフラーキ・ジャラーリー』:倫理学】
W. F. Thompson 1839 : Practical philosophy of the Muhammadan
people, exhibied in its professed connexion with the European,
so as to render either an introduction to the other; being
a translation of the Akhlak-i-Jalaly, the most esteemed
ethical work of Middle Asia, from the Persian of Fakir
Jany Muhammad Asaad: (with references and notes), London.
1 vol. 500pp (OTF50)
Vol.3【ビールーニー『アーサール・アルバーキヤ』:諸民族の暦法】
C. Edward Sachau 1879 : The chronology of ancient nations.
An English version of the Arabic text of the Athar-ul-Bakiya
of al-Biruni, or "Vestiges of the Past," collected and
reduced to writing by the author in A.H. 390-1, A.D. 1000.
Translated and edited, with notes and index, London. 1
vol. 480pp (OTF73)
Vol.4 【イブン・アルアラビー『タルジュマーン・アルアシュワーク』:スーフィー詩集】
A. Nicholson 1911 : Ibn al-`Arabi, Tarjuman al-Ashwaq
1 vol. 160pp
bound with (OTFNS20)
【ガッザーリー『ミシュカート・アルアンワール』:スーフィー理論】
W.H.T. Gairdner 1924 : al-Ghazzali, Mishkat al-anwar,
"The Niche for Lights". 1 vol. 175pp (ASM19)
Vol.5【イブン・アルムタッハル・ヒッリー『アルバーブ・アルハーディー・アシャル』:シーア派教条】
W. M. Miller 1928 : Ibn al-Mutahhar, al-Babu' l-Hadi `Ashar.
1 vol. 110pp
bound with (OTFNS29)
【イブン・アビルドゥンヤー『ザッム・アルマラーヒー』、アフマド・ガッザーリー(d.1126)『バワーリク・アルイルマーゥ』:音楽に対する非難、スーフィズムにおける音楽勤行の擁護】
James Robson 1938 : Tracts on listening to music : being
Dhamm al-malahi by Ibn abi 'l-Dunya and Bawariq al-ilma
by Majd al-Din al-Tusi al-Ghazali, London. 1 vol. 200pp
bound with (OTFNS34)
【ハキーム・ナイサーブーリー『マズハル・イラー・マアリファト・アルイクリール』:ハディース学】
James Robson 1953 : Introduction to the science of tradition,
being al-Madkhal ila ma`rifat al-iklil. 1 vol. 70pp (OTFNS39)
別冊:解説文(日本語)真下裕之著
(OTF: Oriental Translation Fund Series)
(OTFNS: Oriental Translation Fund Series, New Series)
(ASM: Asiatic Society Monographs)
今後の配本予定
Series 2a: History, Geography, and Travels.
Series 2b: History, Geography, and Travels. India.
Series 3: Belles-Lettres
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