19世紀アイルランドは18世紀末の部分的自治権の獲得から英国への併合、そして20世紀初頭のアイルランド自由国の成立へと、ヨーロッパ史の狭間で大きく揺れ動きます。その間アイルランドでは民族運動が高まりをみせますが、同時に英国、ヨーロッパ大陸側でもアイルランドの本質を理解しようとする欲求は膨らみ、この間にアイルランドを訪れた人々の記録、紀行文が残されます。いままで見過ごされがちであったこれらの文献は、19世紀のアイルランドの実状を残した最も信頼できる原資料として見直されています。
これらの貴重文献を復刻する本シリーズ第3集は、同時代に発表されたアイルランド政治・社会・文化の分析をこころみる論文、研究書5作を集めます。編者マイケル・ハーストの解説序文が書き下ろされています。
●19世紀アイルランド社会、政治に鋭く切り込んだ同時代の論評集
●原本は古書での入手も困難な未復刻文献
●アイルランド・英国に関する政治史、文化、文学、思想研究など多分野の研究の資料として利用可能
●近代アイルランド史研究の第一人者マイケル・ハーストによる解説文入り
■各巻明細■
Vol. 1 & 2
New Introduction, by Michael Hurst, 16pp
Gustave de Beaumont, Ireland: Social, Political, and Religious,
ed. W. C.
Taylor, 2 vols. (1839), 390pp, 360pp
フランスで版を重ねたギュスタヴ・ド・ボーモンの名著「アイルランドの社会、政治、宗教」の英訳。
Vol. 3 & 4
Richard Lalor Sheil, Sketches, Legal and Political by
the Late R. Hon. Richard Lalor Sheil, ed. M. W. Sagave,
2 vols. (1855), 419pp, 378pp
19世紀初期のアイルランド法曹界の詳説。
Vol. 5
John Francis Maguire, Father [Theobold] Mathew: A Biography
[1790-1856], (1863), 573pp
同時代のアイルランド系アイルランド人(Anglo-Irish に対してのIrish-Irish)の生活を緻密に描写した貴重な伝記。
Vol. 6
Charles Russell, New View on Ireland, or, Irish Land:
Greivances, Remedies, (1880), 262pp
Clifford Lloyd, Ireland under the Land League: A Narrative
of Personal Experiences (1892), 256pp
土地問題に関する立場の相反する主要2著作を合本。
「19世紀のアイルランド」シリーズ既刊
●第1期: 初期紀行文集成 全6巻●
Part 1: Contemporary Observation of Ireland
2000年7月刊行 本体セット価 ¥115,000 ISBN 4-931444-41-5
Vol. 1 「ヨーロッパ大陸からみたアイルランド」(初の英訳文献集)
Introduction by Michael Hurst
Ireland through Continental Eyes (New Translation by Michael
Hurst) Approx. 300pp
Jozsef Eotvos, Poverty in Ireland (1890) (ハンガリー語からの英訳)
Edouard Dechy, A Journey to Ireland in 1846 and 1847...
(1847) (仏語からの英訳)
Camillo Benso Cavout, Consideration on the Present State
and Future Prospects
of Ireland,(1845) (仏語からの英訳)
Vol. 2 イングリス著「1834年のアイルランド」
Henry David Inglis, A Journey throughout Ireland, during
the spring, summer, and autumn of 1834, 4th ed. (1836)
408pp
Vol. 3 ヘッド著「アイルランドでの2週間」
Francis Bond Head, A Fortnight in Ireland (1852) 416pp
Vol. 4 マコーリー著「アイルランドの真実:1872年と75年の紀行」
James Macauley, The Truth about Ireland - Tours of Observation
in 1872 and 1875 (1875), 419pp
Vol. 5 & 6 マックナイト著「アルスターの現実」2巻
Thomas Macknight, Ulster as it is, or, twenty-eight years'
experience as an Irish Editor, 2 vols. (1896) 414 &
426 pp
● 第2期:同時代の書簡・論評集成 全6巻●
Part 2: Letters and Commentaries on Ireland
2001年6月刊行 本体セット価 \115,000 ISBN:4-931444-56-3
Vol. 1
Introduction by Michael Hurst
[James Doyle]: ドイル著「アイルランドの現状ーイギリスの友への手紙」
Letters on the State of Ireland Addressed by J.K.L. to
a Friend in England (1825), 364pp
Vol. 2
コール著「アイルランドの都市と地方」
Johann George Kohl, Ireland: Dublin, the Shannon, Limerick,
Cork and the Kilkenny Races, the Round Towers, the Lakes
of Killarney, the County of Wicklow, O'Connell and the
Repeal Association, Belfast, and the Giant's Causeway
(1843), 248pp
付録:コール著「スコットランドの都市と地方」
Johann Goerge Kohl, Scotland: Glasgow, the Clyde, Edinburgh;
the Forth, Stirling; Drummond Castle, Perth, and Taymouth
Castle; the Lakes (1844), 100pp
Vol. 3 & 4
フォーブズ著「1852年秋のアイルランド覚書」
John Forbes, Memorandums Made in Ireland in the Autumn
of 1852 (1853), 2 vols., 308/414pp
Vol. 5
トムソン著「1839 年と1869年のアイルランド」
H. S. Thompson, Ireland in 1839 and 1869 (1870), 115pp
ダン著「アイルランドの地方と借地人」
Finlay Dun, Landlords and Tenants in Ireland (1881), 273pp
Vol.6
ジョーンズ著「アイルランドの人々と生活」
William Bence Jones, A Life's Work in Ireland (1880),
338pp
アイルランド関連書
19世紀アイルランド・ナショナリズムのリーダー
「マイケル・ダヴィット著作集」 全8巻
Michael Davitt: Collected Writings, 1868-1906
編集および解説: Carla King, St Patrick's College, Drumcondra
2001年10月刊行 本体セット価¥148,000 ISBN 4-931444-76-8
パーネルとともに19世紀後半アイルランドの支柱であったマイケル・ダヴィット -Michael Davitt
(1846-1906)- の初の著作集が纏められます。「土地同盟の父」として知られるダヴィットは、英国のアイルランド統治に対する土地闘争を指導し、アイルランドの自治獲得やこの時代のアイルランド・ナショナリズムの形成に中心的役割を果たしました。また、自らLabour
World 誌(1890-91)を創刊したことでもわかるように、執筆活動も旺盛に行い、多くの著書、パンフレット、雑誌記事を残しています。
本書はダヴィットの主著6作に加え、彼の発表したパンフレット、講演録、雑誌記事40点を集成します。これらの中には、7年間の獄中生活での待遇に対する意見書、グラッドストーンをきびしく批判した「アイルランドの社会問題」と題する論文、パーネルへ引退勧告する記事等、アイルランド研究に大変貴重な史料が網羅されています。また、英国の職工学校で英国労働者とともに学んだ経験を持つダヴィットの思想の根底には、アイルランド・ナショナリズムより広い、国境を超えた労働者との連帯感があり、それは本書に収録されるボーア戦争への反戦表明書やロシアでのユダヤ人虐待に対する一書にも如実に表れています。
アイルランド研究者だけでなく、19世紀英国研究、政治思想史、社会主義史研究にも多くの問題を投げかけてくれる著作集です。
本書の特色
●19世紀アイルランドの指導者ダヴィット初の著作集成
●入手の極めて困難なパンフレット、講演録等40文献を2巻に収録
●19世紀社会主義のインターナショナリズム研究にも重要なオーストラリア、ボーア戦争、ロシアのユダヤ人問題などに関する著作も含む
●編者の新序文入り
■内容明細■
第1&2巻:パンフレット・講演録・雑誌記事 1868-1906 (計約750頁)
第3巻:獄中日記から、またはたった一人の聴衆への講義
Leaves from a Prison Diary: or Lectures to a 'Solitary'
Audience (1885) xv, 251pp/ xi, 256pp
第4巻:パーネル委員会での「土地同盟」擁護のスピーチ
The 'Times'-Parnell Commission: Speech Delivered by Michael
Davitt in Defence of the Land League. Carefully revised
(1890) 432pp
第5巻:オーストラレーシアにおける生活と進歩
Life and Progress in Australasia (1898) 494pp
第3巻:ボーア人の自由への戦い
The Boer Fight for Freedom (1902) 628pp
第7巻:ロシアでのユダヤ人迫害
Within the Pale: the True Story of Anti-Semitic Persecution
in Russia (1903) 318pp
第8巻:アイルランドでの封建主義の崩壊、または土地同盟革命談
The Fall of Feudalism in Ireland: or the Story of the
Land League Revolution (1904) 774pp
■ダヴィット著作集を推薦する
名古屋市立大学 安川悦子
19世紀末、イギリスの政治はアイルランド自治をめぐって大きく揺れた。グラッドストンやチェンバレンがイギリス側の主役であるとすれば、パーネルとダヴィットはアイルランドの側の主役であった。「土地同盟」を結成し、アイルランド農民に土地を取り戻す運動を展開し、アイルランドの自治を求めたダヴィットはまた、「不熟練労働者の反乱」といわれるロンドンの港湾労働者の運動にも強くコミットしていた。
「土地同盟の父」としてのみ意味があったとするジェームズ・コノリーの評価にみられるように、ダヴィットは、アイルランド・ナショナリズムの歴史において、どちらかといえばネガティヴに評価されてきた。イギリス育ちのアイルランド移民労働者としてダヴィットは、ケルト・ナショナリズムからイギリス労働者との連帯を重視するインタナショナリズムへと思想を変化させていった。フィニアン史観からみれば、これはたしかに異端であった。
しかし20世紀をとおして生きつづけたアイルランド・ナショナリズムは、帝国主義国イギリスのナショナリズムとともにいまパラダイム・チェンジを迫られている。なぜならそれらはともに「国民国家」を基盤として対峙してきたからである。
この「国民国家」のパラダイム自体がいまや問い直されようとしている。ダヴィットのナショナリズム−インタナショナリズムを再検討してみる理由はここにある。ダヴィットは生涯6冊の本を書き、多くの演説をし、パンフレットや雑誌論文を書いた。これまでなかなか現物を手にすることができなかったダヴィットの著作が一つに集められて出版される。ダヴィットの思想と行動がこの著作集をとおして一望できる。アイルランド・ナショナリズムに関心をもつ研究者だけでなく、「国民国家」パラダイムの脱構築をめざす現代史の研究者にもこの著作集はきわめて役に立つと思われる。
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